朴勝俊 Park SeungJoonのブログ

反緊縮経済・環境経済・政策に関する雑文 

【翻訳】イベルメクチン:COVID-19という新たな 世界的惨事に対する有効性が示された ノーベル賞受賞の多面的薬剤

サンティン、シャイム、マカロフ、ヤギサワ、ボロディ「イベルメクチン:COVID-19という新たな世界的惨事に対する有効性が示されたノーベル賞受賞の多面的薬剤」翻訳 ver.1 (2021/8/7)

翻訳:朴勝俊(関西学院大学教授)

これは,論文が受理された後に,表紙やメタデータの追加,読みやすさのためのフォーマットの変更などを行った論文のPDFファイルですが,まだ最終的な記録ではありません。このバージョンは、最終的な出版物になるまでに、さらにコピーやタイプセット、レビューを受けることになりますが、論文の早期公開のためにこのバージョンを提供しています。制作過程において、内容に影響を与えるような誤りが発見される可能性があり、ジャーナルに適用されるすべての法的免責事項が適用されることをご了承ください。

© 2021 The Author(s). Published by Elsevier Ltd.

 

※原論文の参考文献のうち22番は取り下げられています。ご注意ください。

※専門外のため誤訳がありうることをご了承頂き、正確な内容は原典でご確認ください

※文末にPDF版があります

 

f:id:ParkSeungJoon:20210808210848j:plain

 

概要

2015年にノーベル生理学・医学委員会は、感染症の治療に関する60年ぶりの賞を、世界で最も壊滅的な熱帯病に対して使用されている多面的薬剤イベルメクチン(IVM)の発見に与えた。2020年3月に、新たな世界的疫病であるCOVID-19に対してIVMが初めて使用されてから、これまで20件以上の無作為化臨床試験(RCT)が入院および外来治療に対して行われてきた。2021年に報告されたIVM治療に関するRCTの、7つのメタアナリシスのうちの6つで、COVID-19による死亡者数の顕著な減少が認められており、死亡率の平均相対リスクは対照群に対して31%であった〔訳注:死亡率が3割程度に低下する〕。最大量のIVMを投与したRCTでは、対照群と比較して死亡率が92%減少した(被験者総数400名、p<0.001)。ペルーで行われた大規模なIVM治療では、最も大規模な処置が行われた10州において、30日間における過剰死亡が平均74%減少した。死者数の減少は25州すべてにおいて、IVM配布の程度と相関していた(p<0.002)。また、SARS-CoV-2などのベータコロナウイルスの2つの動物モデルにおいても、IVMによる罹患率の大幅な低下が確認された。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に競合的に結合することが、IVMの生物学的メカニズムであるが、これはエピトープ特異的なものはないと考えられ、新たに出現したウイルスの変異株に対しても十分な効果を発揮する可能性がある。

 

はじめに

2015年の、イベルメクチン(IVM)と抗マラリア薬の発見に対するノーベル賞は、感染症の治療薬を対象にしたものとしては、1952年にストレプトマイシンが受賞して以来の受賞となった[1]。多面的な効力を持つ大環状ラクトン[2,3]であるIVMは、1987年から世界中で使用され、オンコセルカ症とリンパ系フィラリア症という2つの壊滅的な熱帯病に対して大きな前進を見せた[4]。さらなる世界的な惨劇に対してIVM治療が開始されてから、1年が過ぎた。COVID-19のIVM治療が初めて実施されてから1年の間に、COVID-19のIVM治療に関する20件以上の無作為化臨床試験(RCT)の結果が報告されており[2,6,7]、25カ国でCOVID-19の入院および外来治療が行われた[2]

IVMの発見でノーベル賞共同受賞者となった大村智博士らは最近、COVID-19に対するIVMの臨床活動を包括的にレビューし、死亡率と罹患率の大幅な低下を示す証拠が圧倒的に多いと結論付けた[2]。我々のレビューも、新たな複数の研究に関する検討を加えた上で、この結論を支持している。

 

SARS-CoV-2および近縁種であるベータコロナウイルスのIVM治療に関する動物実験

 COVID-19に対するIVM治療の臨床結果を検討するための枠組みとして、関連する動物実験で、ヒト相当で低用量のIVMを用いたものがある。ゴールデンハムスターSARS-CoV-2を鼻腔内接種し、COVID-19の症候性感染を引き起こしたさい、IVMを同時に投与することで臨床症状の重症度が有意に低下した(p<0.001)。ウイルス量は減少しなかったものの、無嗅覚症の発生率が3分の1になり、肺組織のIl-6とIl-10との比率が大幅に減少するなどの改善が見られた[10]。別の動物モデルでは,マウスにマウス肝炎ウイルスMHV-A59[11]を感染させた[8]。これはSARS-CoV-2やSARS-CoV,MERSと同様に,ヘマグルチニン・エステラーゼ[12]を発現しないベータコロナウイルス株である。感染マウスでは病理組織学的に重度の肝障害が見られたのに対し、IVM治療を受けたマウスでは肝ウイルス量が半分になり、肝障害も最小限に抑えられ、非感染の対照マウス群で観察されたものと有意差はなかった。

 

COVID-19のIVM治療および予防に関するRCT

上に引用したように、COVID-19のIVM治療に関するRCTは、現在までに20件以上行われている。2021年に登場した、COVID-19のIVM治療研究のメタアナリシスをGoogle Scholarで検索すると[13]、RCTのみから結論を導いた研究が7件あった[6,14-19]。これらのうち4件では、コクランの分析手法を用いて算出された、IVM治療群と対照群の死亡率の相対リスク(RR)は0.25~0.37で、平均は0.31であった[6,14,15,19]〔訳注:これは死亡率が約7割下がったことを意味する〕。他の3つのメタ分析では、オッズ比がそれぞれ0.16、0.21、0.33で、平均0.23であった[16-18]〔訳注:オッズ比は死亡と治癒の比率(オッズ)を、治療群と対照群で比較したものであり、この平均値は対称群と比べてオッズがおよそ4分の1に下がったことを意味する〕。これら7つのメタアナリシスのうち6つは、COVID-19の死亡率を減少させるIVMの有効性について有意[6,14-16]あるか、その可能性がある[17,18]と結論づけている。そのうち1つのメタアナリシスは、その最初のバージョン[20]ではIVMの有効性を示す証拠はないとし、IVM治療と対照のRRを1.11と報告していたが、このRR値を0.37に変更して〔括弧:死亡率が約3分の1になることを認めて〕、ひとつ研究[21]に関して治療群と対照群の死亡数を取り違えていたのを訂正した後も、同じ結論に拘泥していた[19]。これら7つのメタ分析のうちで最も新しく包括的なものは、11のRCTから得られたIVM治療群の被験者1,101人の死亡数31人と、対照群の被験者1,064人の死亡数91人の合計をプールしたものであるが、これは死亡率の67%の減少を意味当し、全体的な効果の統計的な有意性はp=0.005であった[16]。最大量のIVMを使用したRCTでは、1~4日目の各日に400μg/kgを投与したが[22]、治療群と対照群(各200人)の死亡者数は2対24で、COVID-19による死亡率は92%減少した(p<0.001)。

上記のようにCOVID-19のIVM治療の有効性を示す臨床的証拠が圧倒的に多いことに対して、2021年の時点で異議が唱えられていたのは、これらのRCTのいずれも「主流の査読付き学術誌」に掲載されていなかったためである[23]。しかし、このギャップを埋めるごとく、2021年にCOVID-19治療に関する5つのRCTが主要学術出版社の雑誌に発表された[24-28]。また2021年には、COVID-19のIVM治療に関する他の3つのRCTが発表された。そのうちの1つはIVM治療の方が、入院期間が短いことを報告したが、統計的有意性が不足している(p=0.08)[29]。IVMを他の2つの薬物治療群と比較した研究は、プラセボ群との比較は行わず、便益を認めなかった[30]。さらには、コロンビアのカリで行われた追加の研究では、以下に述べるように、治療薬とプラセボ服用の混同がみられた。

 IVMの有効性を裏付けるRCTの証拠に対しては、研究の母集団が小さすぎるという反論もあった[31]。しかし、臨床試験デザインでは、効果の高い薬剤は、少ないサンプルサイズで統計的に有意な結果を得ることができ、効果の低い薬剤にはより大きな試験集団が必要となることがよく知られている[32]。例えば、上述したように、COVID-19の最大用量のIVM治療試験では、死亡率を追跡した結果、治療群と対照群の200人ずつの死亡数は2対24であり[22]、z検定のp値は0.0006であった[33]。しかし例えば、相対リスク(RR)が75%程度の薬剤の場合には、治療群と対照群で同じ統計的有意性を得るためには、それぞれ3,800人以上の被験者が必要となる[33]。大規模な研究集団は新薬の副作用(adverse effects, AE)をスクリーニングするのに有用であるが、IVMは1987年以来、世界中で37億回投与されて安全に使用されており[2,3],標準的な単回投与量である200 μg/kgよりもはるかに多い量でも許容されている[34,35].COVID-19治療のRCTでは1,500 μg/kg[36]や1,600 μg/kg[22]、3,000 μg/kg[37]の累積投与量で4日または5日にわたって使用されているが、軽度ないしは一過性の副作用がわずかに認められるのみである。

COVID-19の高用量IVM治療の安全性を確立したRCTの中には、コロンビアのカリで実施されたものがあるが、これは中央値37歳の概して軽度のCOVID-19症例を対象とし、対照群には1名の死亡者を含む[36]。この研究では、IVM 治療による統計学的に有意な症状の改善は認められなかったが、顕著な異変が報告された。すなわち、IVM 治療の高用量に特徴的な副作用が、IVM 治療群とプラセボ群でほぼ同じ割合で発生していたのである。その内容は、一過性の目のかすみ(11.3%、11.6%)や、めまい(35.6%、34.3%)などであった。これらの対照群でのIVM使用の兆候が見られたのは、試験期間中に試験地域でIVMの店頭販売が急増したためである(原典:補足表1)。さらに、38名の患者に対してIVMがプラセボと間違えて投与されていたことが、主任薬剤師が1カ月後に発見したことによって、本試験の治療群と対照群の境界に疑問が生じた(原典試験、p.3、試験プロトコル補足資料、p.43)。さらに、64人の対照患者にプラセボとしてブドウ糖生理食塩水を使用したことで盲検化が行われたが(IVMは独特の苦味がある)、代わりのプラセボ溶液の組成は特定されていなかった[38]

以上のようなCOVID-19治療におけるIVMの有効性の知見を裏付けるものとして、予防試験においてSARS-CoV-2に対する活性が示唆された。3件のRCTでは、COVID-19患者に曝露された100人[22]、117人[39]、203人[40]コホートにIVMを投与して予防効果を評価している。これらの研究では、いずれも週に少なくとも150 μg/kgの量のIVMを使用しており、COVID-19の発症を統計的に有意に減少させたことが報告されており、それぞれのRRは対照と比較して20%、26%、13%で、中等症および重症の発症はより大きく減少した。COVID-19の予防に関する別のRCTでは、42日間の観察期間の第1日目に、617人の被験者に12 mg(約150 μg/kg)のIVMを1回だけ投与し、他の3つの予防的投薬群では、その期間中に毎日投与を行った[41]。低容量のIVMの1回だけ投与した群は、4つの投薬群の中で最も優れた結果をもたらした。対照群と比べて、COVID-19の症状と急性呼吸器症状の両方で50%近くの、統計学的に有意な減少を示したのである。  

 

ペルーではIVM使用時に過剰死亡が14分の1に減少し、IVM使用終了後は13倍に増加した

 25カ国におけるCOVID-19のIVM治療の臨床経験は、RCTをはるかに超えるものであり、結果は要約されているが、追跡が不完全で対照群がないため、ほとんどが評価対象外とされてきた。ペルーにおける、国家的に認可された治療の記録は、注目すべき例外である[42]。ペルーの10の州で、多くの人々を対象とするCOVID-19のIVM治療がなされた。これは軍隊主導の大規模な取り組みであるMega-Operacion TaytaMOT)によって行われ、各州で異なる日付で開始された。これらのMOT実施州では過剰死亡者数がピーク時から30日間で平均74%と急激に減少したが、これはMOT開始日と強く関係している(図1B)。ペルーの14州では、現地でIVMの配布が行われたため、ピーク時から30日間の過剰死亡数の減少率は平均53%であったが、パンデミックの第一波の際に、抑制的政策によってIVMの配布がほとんど行われなかったリマでは、30日間の過剰死亡数の減少率は25%であった。     

州別の過剰死亡数の減少(絶対値)は、図1Cに示すように、IVM配布の程度(最大:MOT実施州、中程度:地域配布、最小:リマ)と相関している(ケンドールの順位相関係数 τb = 0.524、p<0.002)。全国的には、2020年12月1日までの4ヶ月間で過剰死亡数が14分の1に減少した。しかし、11月17日に就任したペルーの新大統領の下で、IVM治療を制限する政策が実施された後、12月1日から2021年2月1日までの2カ月間で死亡数が13倍に増加した(図1A)。ロックダウンや集団免疫などの潜在的な交絡因子は、Google社のコミュニティ移動データや、血清反応率、人口密度、SARS-CoV-2遺伝子変異の地理的分布などを用いて除外し、図1A以外の解析対象を年齢60歳以上に限定した。2020年7月以降、パンデミックの症例死亡数を大幅に過少報告していたことをペルー保健省が把握しているため、すべての分析においてCOVID-19の症例死亡数ではなく,過剰死亡数を用いた[43].この違いはそれ以降も、国民健康データベースにおいて、COVID-19症例死亡数と全自然死の数値に一貫して現れている[42]

 

f:id:ParkSeungJoon:20210808155405j:plain

図1  A)ペルーの全国民人口における、全原因による過剰死亡(全年齢)。これらは8月1日から2020年12月1日まで14分の1に減少し、IVMの使用が制限された後は2月1日までに13倍に増加した。AとBに関して、縦軸の値(y値)は7日間の移動平均値であり、BとCは60歳以上である。データはPeru’s National Death Information System (SINADEF)によるもの。

B)軍主導の大量IVM配布プログラム「MOT作戦」が実施されたほぼ全ての州で過剰死亡者数が減少したが、Pascoは3日間しかプログラムが実施されておらず、例外である。●MOT開始日の死亡者数、▲ピーク時の死亡者数、■ピーク時から30日後の死亡者数。Juninでは、MOT開始の13日前に地元のルートでIVMを配布した。

C)25州におけるIVM配布の程度別に見た、ピーク死亡時から30日後の過剰死亡数の減少率: MOTを最大限に実施した州(+)は平均74%減、地域配布を行った州(○)は平均53%減、最小減実施地域のLima(×)は25%減であった。これらの州別減少数の絶対値は、IVM配布の程度と相関している(Kendall τb = 0.524, p<0.002(Spearman rho = 0.619, p<0.001)となった。

これらのデータはすべて、一般公開されているペルーの国家データベースから得たものであり、関連する圧縮データセットはDryadデータリポジトリから入手可能である[42]

 

IVMを用いた併用療法とその他の進行中の研究

 IVMと補助薬を用いた併用療法は、これまでに実施されたRCTにおいて、COVID-19に対する有効性が示されている[24,44]。IVMとドキシサイクリンと亜鉛を用いて、治療前の spO2〔訳注:パルスオキシメーターで測定する経皮的動脈血酸素飽和度〕 が 90%以下の重症・重篤な症例を治療し、24時間後のspO2のた結果は、Sabine Hazan医学博士とともに、本論文の共著者ボロディ(TJB)が報告するであろう。IVM投与後1~2日でCOVID-19の重篤な症状が顕著に改善することが、本論文の筆頭著者(サンティン、ADS)が治療した数名の患者で確認されている。また、COVID-19に対するIVMの、このような短期的な臨床効果を客観的に追跡する研究が進行中である。IVMとフルボキサミンなどの薬剤を併用した他の併用療法は、医学的研究によって有意な便益が示されているが[45]、これについては米国のFLCCCアライアンス(https://covid19criticalcare.com)が情報提供を行っている。

併用療法の治癒可能性は、消化性潰瘍に関する30年前の医学的ブレイクスルーによって実証されていた。この病因としてのヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の発見は、2005年にノーベル医学賞を受賞した。1990年には、Thomas J. Borody博士が、ヘリコバクター・ピロリに対する併用療法の初の臨床試験を発表し、3つの再利用可能な薬剤(亜硝酸ビスマスと2つの抗生物質)からなる3剤併用療法で96%の治癒率を達成した[46]。1990年から2015年の間にオーストラリアでは、消化性潰瘍に対してこの3剤併用療法を適時に使用したことで、18,665人の死亡を防いだと推定される[47]。1990年代後半には、消化性潰瘍の緩和薬であるタガメットとザンタックの特許が切れ、3剤併用療法が世界の標準治療となった。

 

結論

 私たちは、COVID-19に対するIVM治療を、予防接種と相補的に世界中に拡大すべきことを、これまでのエビデンスが支持するものと考える。IVMの生物学的メカニズムとして示されている、SARS-CoV-2スパイクタンパク質との競合的結合は、レビューされているように、エピトープ特異的ではないものと考えられ、新興のウイルス変異株に対しても十分な効果が得られる可能性がある。IVMは1987年以来、37億回投与されており、標準的な投与量よりもはるかに多い投与量でも忍容性が高く[34,35]、前述のCOVID-19の高用量治療に関する3つの研究でも重篤な症状は見られなかった[34,36,37]。世界的なCOVID-19の緊急事態において、変異ウイルス株やワクチン接種の拒否、そして数ヶ月で免疫力が低下しうることが新たな課題となっているが、IVMはこのパンデミックに対して展開される治療法の、効果的な構成要素となり得るものである。

 

資金提供:この論文に関する資金供与はありません。

倫理的承認及び参加同意:この研究はレビューであり倫理的承認は必要ありません。

利害相反:著者のうちTJBは、IVMを含むCOVID-19の費用対効果の高い治療法の商業化を目指しているTopelia Therapeutics(カリフォルニア州ベンチュラ)の代表者の一人です。他のすべての著者は利益相反を報告していません。

 

参考文献

  1. Ergonul O, Yalcin CE, Erkent MA, Demirci M, Uysal SP, Ay NZ, et al. Who can get the next Nobel Prize in infectious diseases? International Journal of Infectious Diseases. 2016;45:88-91.
  2. Yagisawa M, Foster PJ, Hanaki H, Omura S. Global Trends in Clinical Studies of Ivermectin in COVID-19. The Japanese Journal of Antibiotics. 2021;74(1).
  3. Campbell WC. History of avermectin and ivermectin, with notes on the history of other macrocyclic lactone antiparasitic agents. Curr Pharm Biotechnol. 2012;13(6):853-865.
  4. Crump A, Ōmura S. Ivermectin, 'wonder drug' from Japan: the human use perspective. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2011;87(2):13-28.
  5. Rajter JC, Sherman MS, Fatteh N, Vogel F, Sacks J, Rajter J-J. Use of Ivermectin is Associated with Lower Mortality in Hospitalized Patients with COVID-19 (ICON study). CHEST. 2020. doi:10.1016/j.chest.2020.10.009.
  6. Hill A, Abdulamir A, Ahmed S, Asghar A, Babalola OE, Basri R, et al. Meta-analysis of randomized trials of ivermectin to treat SARS-CoV-2 infection. Research Square. 2021.
    doi:10.21203/rs.3.rs-148845/v1.
  7. Kory P, Meduri GU, Varon J, Iglesias J, Marik PE. Review of the Emerging Evidence Demonstrating the Efficacy of Ivermectin in the Prophylaxis and Treatment of COVID-19. American Journal of Therapeutics. 2021;28(3):e299-e318.
  8. Scheim DE. From cold to killer: How SARS-CoV-2 evolved without hemagglutinin esterase to agglutinate, then clot blood cells in pulmonary and systemic microvasculature SSRN. 2020 [Available from: http://ssrn.com/abstract=3706347]. Access date March 30, 2021.
  9. Zaidi AK, Dehgani-Mobaraki P. The mechanisms of action of Ivermectin against SARS-CoV-2: An evidence-based clinical review article. The Journal of Antibiotics. 2021. 10.1038/s41429-021-00430-5.
  10. Melo GD, Lazarini F, Larrous F, Feige L, Kergoat L, Marchio A, et al. Anti-COVID-19 efficacy of ivermectin in the golden hamster. bioRxiv. 2020. doi:10.1101/2020.11.21.392639.
  11. Arévalo AP, Pagotto R, Pórfido JL, Daghero H, Segovia M, Yamasaki K, et al. Ivermectin reduces in vivo coronavirus infection in a mouse experimental model. Scientific Reports. 2021;11(1):7132.
  12. Kazi L, Lissenberg A, Watson R, de Groot RJ, Weiss SR. Expression of Hemagglutinin Esterase Protein from Recombinant Mouse Hepatitis Virus Enhances Neurovirulence. J Virol. 2005;79(24):15064-15073.
  13. Search for papers having "ivermectin," "meta," and "COVID" OR "SARS" in the title, appearing in 2021. [Available from: https://scholar.google.com/scholar?as_q=ivermectin+meta+%28COVID+OR+SARS%29&as_epq=&as_oq=&as_eq=&as_occt=title&as_sauthors=&as_publication=&as_ylo=2021&as_yhi=2021&hl=e216 n&as_sdt=0%2C47]. Access date June 13, 2021.
  14. Bryant A, Lawrie TA, Dowswell T, Fordham EJ, Mitchell S, Hill SR, et al. Ivermectin for Prevention and Treatment of COVID-19 Infection: A Systematic Review, Meta-analysis, and Trial Sequential 219 Analysis to Inform Clinical Guidelines. American Journal of Therapeutics. 2021. 220 doi:10.1097/MJT.0000000000001402.
  15. Hariyanto TI, Halim DA, Rosalind J, Gunawan C, Kurniawan A. Ivermectin 221 and outcomes from Covid-19 pneumonia: A systematic review and meta-analysis of randomized clinical trial studies. Reviews in Medical Virology. 2021. https://doi.org/10.1002/rmv.2265:e2265.
  16. Karale S, Bansal V, Makadia J, Tayyeb M, Khan H, Ghanta SS, et al. A Meta-analysis of Mortality, Need for ICU admission, Use of Mechanical Ventilation and Adverse Effects with Ivermectin Use in 226 COVID-19 Patients. medRxiv. 2021. doi:10.1101/2021.04.30.21256415.
  17. Kow CS, Merchant HA, Mustafa ZU, Hasan SS. The association between the use of ivermectin and mortality in patients with COVID-19: a meta-analysis. Pharmacological Reports. 2021. 10.1007/s43440-021-00245-z.
  18. Rodriguez-Gutierrez R, Raygoza-Cortez K, Garcia-Leal M, Saenz-Flores M, Solis RC, Flores-Rodriguez A, et al. Ivermectin in the Prophylaxis and Treatment of Patients with SARS-CoV-2: A Living Systematic Review and Meta-Analysis SSRN 2021 [Available from: 233 http://ssrn.com/abstract=3802499]. Access date June 13, 2021.
  19. Roman YM, Burela PA, Pasupuleti V, Piscoya A, Vidal JE, Hernandez AV. Ivermectin for the treatment of COVID-19: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. 236 medRxiv. 2021. doi:10.1101/2021.05.21.21257595.
  20. Roman YM, Burela PA, Pasupuleti V, Piscoya A, Vidal JE, Hernandez AV. Ivermectin for the treatment of COVID-19: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials 239 (version 1). medRxiv. 2021. doi:10.1101/2021.05.21.21257595v1.
  21. Niaee MS, Gheibi H, Namdar P, Allami A. Ivermectin as an adjunct treatment for hospitalized adult COVID-19 patients; A randomized multi-center clinical trial. Research Square. 2020. 242 doi:10.21203/rs.3.rs-109670/v1.
  22. Elgazzar A, Hany B, Abo Youssef S, Hany B. Efficacy and Safety of Ivermectin for Treatment and prophylaxis of COVID-19 Pandemic. Research Square. 2020. doi:10.21203/rs.3.rs-100956/v1.
  23. Sax PE. Ivermectin for COVID-19 — Breakthrough Treatment or Hydroxychloroquine Redux? : NEJM Journal Watch; January 4, 2021 [Available from: https://blogs.jwatch.org/hiv-id-observations/index.php/ivermectin-for-covid-19-breakthrough-treatment-or-hydroxychloroquineredux/2021/01/04/]. Access date June 13, 2021.
  24. Mahmud R, Rahman MM, Alam I, Ahmed KGU, Kabir AKMH, Sayeed SKJB, et al. Ivermectin in combination with doxycycline for treating COVID-19 symptoms: a randomized trial. Journal of International Medical Research. 2021;49(5):03000605211013550.
  25. Okumuş N, Demirturk N, Cetinkaya RA, Guner R, Avcı İY, Orhan S, et al. Evaluation of the effectiveness and safety of adding ivermectin to treatment in severe COVID-19 patients. BMC Infectious Diseases. 2021;21(1):411.
  26. Samaha AA, Mouawia H, Fawaz M, Hassan H, Salami A, Bazzal AA, et al. Effects of a Single Dose of Ivermectin on Viral and Clinical Outcomes in Asymptomatic SARS-CoV-2 Infected Subjects: A Pilot Clinical Trial in Lebanon. Viruses. 2021;13(6):989.
  27. Shahbaznejad L, Davoudi A, Eslami G, Markowitz JS, Navaeifar MR, Hosseinzadeh F, et al. Effect of ivermectin on COVID-19: A multicenter double-blind randomized controlled clinical trial. Clinical Therapeutics. 2021. https://doi.org/10.1016/j.clinthera.2021.04.007.-
  28. Chaccour C, Casellas A, Blanco-Di Matteo A, Pineda I, Fernandez-Montero A, Ruiz-Castillo P, et al. The effect of early treatment with ivermectin on viral load, symptoms and humoral response in patients with non-severe COVID-19: A pilot, double-blind, placebo-controlled, randomized 263 clinical trial. EClinicalMedicine. 2021. 10.1016/j.eclinm.2020.100720.
  29. Abd-Elsalam S, Noor RA, Badawi R, Khalaf M, Esmail ES, Soliman S, et al. Clinical Study Evaluating the Efficacy of Ivermectin in COVID-19 Treatment: A Randomized Controlled Study. Journal of Medical Virology. 2021. https://doi.org/10.1002/jmv.27122.
  30. Galan LEB, Santos NMD, Asato MS, Araujo JV, de Lima Moreira A, Araujo AMM, et al. Phase 2 randomized study on chloroquine, hydroxychloroquine or ivermectin in hospitalized patients with severe manifestations of SARS-CoV-2 infection. Pathog Glob Health. 2021;115(4):235-242.
  31. COVID-19 Scientific Advisory Group Rapid Evidence Report: Ivermectin in the Treatment and Prevention of COVID-19: Alberta Health Services; February 2, 2021 [Available from: https://www.albertahealthservices.ca/assets/info/ppih/if-ppih-covid-19-sag-ivermectin-in-treatment-and-prevention-rapid-review.pdf]. Access date June 13, 2021.
  32. Sakpal TV. Sample size estimation in clinical trial. Perspect Clin Res. 2010;1(2):67-69.
  33. Kohn M, Senyak J. Sample Size Calculators: UCSF CTSI; [updated April 29, 2021. Available from: https://www.sample-size.net/]. Access date June 15, 2021.
  34. Navarro M, Camprubi D, Requena-Mendez A, Buonfrate D, Giorli G, Kamgno J, et al. Safety of high dose ivermectin: a systematic review and meta-analysis. Journal of Antimicrobial Chemotherapy. 2020;75(4):827-834.
  35. Guzzo CA, Furtek CI, Porras AG, Chen C, Tipping R, Clineschmidt CM, et al. Safety, tolerability, and pharmacokinetics of escalating high doses of ivermectin in healthy adult subjects. J Clin Pharmacol. 2002;42(10):1122-1133.
  36. Lopez-Medina E, Lopez P, Hurtado IC, Davalos DM, Ramirez O, Martinez E, et al. Effect of Ivermectin on Time to Resolution of Symptoms Among Adults With Mild COVID-19: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021. 10.1001/jama.2021.3071.
  37. Krolewiecki A, Lifschitz A, Moragas M, Travacio M, Valentini R, Alonso DF, et al. Antiviral effect of high-dose ivermectin in adults with COVID-19: a pilot randomised, controlled, open label, multicentre trial: SSRN; 2020 [Available from: http://ssrn.com/abstract=3714649]. Access date June 10, 2021.

38 Scheim DE, Hibberd JA, Chamie JJ. Protocol violations in Lopez-Medina et al.: switched ivermectin (IVM) and placebo doses, failure of blinding, ubiquitous IVM use OTC in Cali, and nearly identical AEs for the IVM and control groups: OSF Preprints; 2021 [Available from: 294 https://doi.org/10.31219/osf.io/u7ewz]. Access date June 10, 2021.

  1. Chahla RE, Medina Ruiz L, Ortega ES, Morales MF, Barreiro F, George A, et al. A randomized trial - intensive treatment based in ivermectin and iota-carrageenan as pre-exposure prophylaxis for COVID-19 in healthcare agents. medRxiv. 2021. doi:10.1101/2021.03.26.21254398.
  2. Shouman W, Hegazy A, Nafae R, Ragab M, Samra S, Ibrahim D, et al. Use of Ivermectin as a Prophylactic Option in Asymptomatic Family Close Contacts with Patients of COVID-19 (NCT number: 04422561). Journal of Clinical and Diagnostic Research. 2021;15(2):OC27.
  3. Seet RCS, Quek AML, Ooi DSQ, Sengupta S, Lakshminarasappa SR, Koo CY, et al. Positive impact of oral hydroxychloroquine and povidone-iodine throat spray for COVID-19 prophylaxis: An open label randomized trial. International Journal of Infectious Diseases. 2021;106:314-322.
  4. Chamie JJ, Hibberd JA, Scheim DE. Ivermectin for COVID-19 in Peru: 14-304 fold reduction in nationwide excess deaths, p<0.002 for effect by state, then 13-fold increase after ivermectin use restricted: OSF Preprints; 2021 [Available from: https://doi.org/10.31219/osf.io/9egh4]. Access date June 10, 2021. Associated frozen data from the Peruvian SINADEF database used in this analysis is available from the Dryad data repository at https://doi.org/10.5061/dryad.dv41ns1xr.
  5. Covid-19: segundo informe para actualizar cifra de fallecidos se conocerá esta semana. Andina. Agencia Peruana de Noticias. 2020 2020/07/26.
  6. Hashim HA, Maulood MF, Rasheed AM, Fatak DF, Kabah KK, Abdulamir AS. Controlled randomized clinical trial on using Ivermectin with Doxycycline for treating COVID-19 patients in Baghdad, Iraq. medRxiv. 2020. doi:10.1101/2020.10.26.20219345.
  7. Sukhatme VP, Reiersen AM, Vayttaden SJ, Sukhatme VV. Fluvoxamine: A Review of Its Mechanism of Action and Its Role in COVID-19. Frontiers in Pharmacology. 2021;12(763).
  8. George LL, Borody TJ, Andrews P, Devine M, Moore-Jones D, Walton M, et al. Cure of duodenal ulcer after eradication of Helicobacter pylori. Med J Aust. 1990;153(3):145-149.
  9. Eslick GD, Tilden D, Arora N, Torres M, Clancy RL. Clinical and economic impact of "triple therapy" for Helicobacter pylori eradication on peptic ulcer disease in Australia. Helicobacter. 2020;25(6):e12751.

48. Berndt ER, Kyle M, Ling D. The Long Shadow of Patent Expiration: Generic Entry and Rx-to-OTC Switches. In: Feenstra RC, Shapiro MD, editors. Scanner Data and Price Indexes. Chicago: Univeristy of Chicago Press; 20

 

※PDF版はこちら

drive.google.com

【動画】戦後の経済成長を支えた財政投融資


www.youtube.com

 

戦後の経済成長を支えた財政投融資に注目する動画を作りました。戦後日本の財政はながらく健全財政(一般会計の国債発行ゼロ)だったのに、どうやって戦後の産業復興やインフラ建設などの資金を、政府がまかなうことができたのでしょうか? 広い意味での政府が、いっさいの負債(貨幣発行や借り入れ)によらずに資金をまかなったと考えるのは間違いです。

 

f:id:ParkSeungJoon:20210415112216j:plain

終戦直後のインフレ期には、復興金融公庫の資金調達のための債券(復金債)は、大部分が日銀によって引き受けられていました。そして、財政投融資の制度が確立してくると、その財源の多くは、経済成長の成果を人々が郵便貯金などの形で蓄え、その巨額の資金を政府が運用していたのです。

 

さいごに、石橋湛山蔵相が、戦後インフレまっただ中の1946年4月に、次のような素晴らしい演説をしていたことを、紹介しておきます。

 

「インフレは、通貨収縮、すなわちデフレ政策によって処理しうるものでは断じてない。饑饉物価は、物の生産と出廻りによってのみ救治しうる。...財政の第一要義は...生産活動を再開せしめることにある。たとえ財政おいて赤字を生じ、ために通貨の増発を来すとも、何ら差し支えがない。...かえってこれこそ真の意味の健全財政であると信ずる」

 

f:id:ParkSeungJoon:20210415112241j:plain

 

動画で使われているスライドは、こちらからDLして頂けます。
使用される場合は、出典を明記して下さい。

drive.google.com

【動画】シンポジウム 「積極財政をどのように考えるか―MMTに関係する報告と討論―」

公益財団法人政治経済研究所のシンポジウムでお話させて頂きました。当日の動画が公開されていますので、ぜひご覧下さい。

 

f:id:ParkSeungJoon:20210105231616j:plain

 

公益財団法人政治経済研究所の主催シンポジウム
「積極財政をどのように考えるか―MMTに関係する報告と討論―」

 

報告者 朴勝俊(関西学院大学教授)
論 題 「貨幣の本質と財政破綻論」YouTubeで動画を公開中)

討論者 岡本英男(東京経済大学教授、学長)
    建部正義(中央大学名誉教授)
司会者 齊藤壽彦(政治経済研究所理事、千葉商科大学名誉教授)

 

 新型コロナウィルスの感染拡⼤とその対応策によって、我が国の経済は甚⼤な被害を受け、多くの⼈々が厳しい⽣活状況へと追い込まれました。このような状況のなかで、国による積極的な財政⽀援が求められていますが、⼀⽅で、⽇本の財政は危機的な状態であり、無駄な歳出の削減や消費税増税などによって財政健全化を図る必要があるということも⼀般に広く認識されています。

 しかし、本研究会の報告者である朴勝俊⽒は、MMT(現代貨幣理論)を援⽤することで、⽇本の財政を新たな観点から捉え直し、積極財政の可能性について分析し、提⾔されています。

 本研究会では、朴勝俊先⽣とともに、⽇本の財政について再検討します。

 

www.youtube.com

 公益財団法人政治経済研究所のHPはこちら

www.seikeiken.or.jp

 

【翻訳】緊縮財政とナチスの台頭

欧米諸国の多くは2007-2008 年の金融危機からの債務問題に対応するために、ディープな緊縮財政を追求してきたが、COVID-19 の景気刺激策の結果、再び緊縮財政を行う可能性がある。本コラムでは、1930年代初頭に緊縮財政がいかに社会的苦痛を悪化させ、政治的不安を助長し、ドイツでナチス党の台頭への道を開いたかをレビューしている。著者らは、ワイマール政府が社会的苦痛に対する首尾一貫した対応をしなかったことが不景気を悪化させ、ドイツの有権者の過激化と分極化に寄与したと論じている。

 

2020年8月16日

グレゴリ・ガロフレ・ヴィーラ、クリストファー・マイスナー、マーティン・マッキー、デヴィッド・スタックラー 著

2021年1月4日

朴勝俊 翻訳

原典:VoxEU.org
https://voxeu.org/article/fiscal-austerity-and-rise-nazis

f:id:ParkSeungJoon:20210105011017j:plain

 

 

緊縮財政とナチスの台頭

 

何がヒトラーを権力の座へと押し上げたのかについては、多くの文書が書かれている。経済的要因(世界恐慌から高い失業率まで)と社会文化的条件(ヴェルサイユ条約での抑圧的措置に起因する)が重要な役割を果たしたことは異論がないが、なぜナチス党がかくも急速に台頭したのかについては、1世紀近く経った今でも、論争の的である(Adena et al. 2015, Doerr et al. 2018, Eichengreen 2018, Ferguson and Voth 2008, Satyanath et al. 2017, Voigtländer and Voth 2012, Voth 2020).

 

我々の最近の研究は、緊縮財政が1930年代初頭の選挙におけるナチスの成功にいかに寄与したかを示した(Galofré-Vilà et al. 2020)。1930年から1933年までの間、いずれのドイツ総選挙においても、大幅な歳出カットと増税が行われた地方自治体では、ナチス党への投票率が高かった。

 

当時の財政政策は、議会を大きく迂回して一連の非常事態令によって実施された。しかもそれらは甚大な苦難をもたらすことを承知の上で布告された。ハインリッヒ・ブリューニング首相は、国際メディアがドイツの苦境を報道することで、経済的に窮地に陥ったドイツの債務や賠償義務を国際社会が緩和することを期待していた。しかし,ヒトラーは1931年6月に「この非常事態令はわが党の勝利を助け,それゆえに現在の制度の幻想に終止符を打つだろう」と予言した[1]。

 

緊縮財政が選挙結果に与えた影響

 

1930年から1932年にかけて、大恐慌の真っ只中においてブリューニングは、歳出を削減し、増税し、社会的セーフティネットを撤回した。実質歳出は8%削減され、中央政府の実質歳出は14%削減された。救済金と失業給付は制限され、インフラ支出は削減され、公務員の給与はカットされた。1928年にはすでに政府支出がGDPの約30%を占めていたため、その影響は多くの点で大きかった。税率も引き上げられ、負担率で見れば低所得者層に最も厳しい打撃を与えた。ますます多くのドイツ国民が、この危急の時に、経済的な不安定と疎外に直面したのだ。恐慌に対抗するための拡張的な財政政策は実施されず、ドイツ国民はますます排除的で疲弊した救済制度に頼らざるを得なくなった。

 

これらの緊縮策は、選挙民の過激化に寄与したのだろうか。また、もしそうだとしたら、これは「圧迫された」中産階級の権利剥奪によって起こったのだろうか?我々は、1930年から1933年までの4回の選挙を対象に、100以上の都市と1000以上の小選挙区に関するドイツの公式統計データを用いて、これらの仮説を検証する。全体として、緊縮財政の影響を受けた地域ほど、ナチス党への投票率が相対的に高いことがわかった。都市と選挙に関する固定効果を含め、ナチスの成功に関係する他の説明変数を制御したモデルは、緊縮財政のディープさが1標準偏差ぶん増加するごとに、従属変数であるナチスの得票率が2~5%ポイント(1標準偏差の4分の1~半分増加)増加することを示した。また、選挙におけるナチスの成功と増税との間に正の相関があることも示された。これらの結果は、操作変数法や境界ペア政策不連続デザイン(border-pair policy discontinuity design)など、ひととおり定式化を変えても頑健であった。

 

我々はまた、別の説明についても調査した。その中で最も重要なものは、もちろん「個人志向の経済投票(pocketbook-voting)」である。ナチスの台頭は単に景気後退によるものだ、というものである。重要なのは、データ内の各政党の得票数を区別できることである。以下に示すように、緊縮財政による政治的支持の変化のほとんどは、中央党(ブリューニングの政党)からナチス党への鞍替えであった。さらに、ドイツの政治スペクトルにおける(極右イデオロギーを持つもう一つの政党であるドイツ国民人民党を含む)その他の主要政党は、緊縮財政に応じて票を増やすということはなかった。経済的に最悪の状態にある失業者は、ナチスではなく共産主義者に目を向けた。このことは、彼らより少し上の階層が、増税と歳出削減で失うものがより大きく、自分たちの支持政党が経済的救済を提供しなかったときに、ナチスを支持したという説明と合致する。

 

緊縮財政と回避可能死亡率の悪化

 

我々はまた、歳出の種類ごとに、ナチスの得票増に緊縮財政が与えた影響を研究した。これにより、選挙結果に対する緊縮財政の影響のほとんどは、緊縮財政によって深刻な影響を受けた2つの支出項目、すなわち医療と住宅に関する支出削減によって引き起こされたことが分かった。こうした社会的支出の削減は、多くのドイツ国民の苦しみを悪化させた。事実我々は、比較的厳しい緊縮財政が行われた地域ではより大きな苦しみ(死亡率で測定)が見られ、死亡率が高いこれらの地域の有権者ナチス党に投票する可能性がより高いことを発見した。これは当時の識者たちの見解と一致している。例えば、1930年10月の秋には、ハルマール・シャハト(ドイツ帝国銀行元総裁)がアメリカのマスコミのインタビューに応じて、「もしドイツ国民が飢餓に陥るならば、もっと多くのヒトラーが出てくるだろう」と警告した(The New York Times, 3 October 1930)。

 

結論

 

ワイマール・ドイツの終焉とナチスファシズムの台頭は、あまりにも過酷な緊縮財政が、社会不安と意図せざる政治的結果を引き起こしかねないことを示した。景気後退を含む他の説明変数をコントロールした後でも、緊縮財政が重要な役割を果たしたことは明らかである。我々の知見は、緊縮財政が人々の現実の苦しみをもたらし、不平等と不公平を悪化させたという仮説と一致している。人々が政府の助けを最も必要としていた時期に、政府は彼らを失望させた。その結果、人々は急進的ポピュリスト政党の誘惑の声に引き寄せられたのである。

 

References

Adena, M, R Enikolopov, M Petrova, V Santarosa, and E Zhuravskaya (2015),  “Radio and the Rise of the Nazis in Prewar Germany.” The Quarterly Journal of Economics 130(4): 1885-1939.

Doerr, S, S Gissler, J L Peydró, and H-J Voth (2018), “From Finance to Extremism: The Real Effects of Germany’s 1931 Banking Crisis”, CEPR Discussion Paper 12806.

Eichengreen, B (2018), The Populist Temptation: Economic Grievance and Political Reaction in the Modern Era, Oxford University Press.

Ferguson, T, and H-J Voth (2008), "Betting on Hitler – The Value of Political Connections in Nazi Germany," Quarterly Journal of Economics 123(1): 101-37.

Galofré-Vilà, G, C M Meissner, M McKee, and D Stuckler (2020), "Austerity and the rise of the Nazi party", Journal of Economic History, forthcoming.

Satyanath, S, N Voigtländer, and H-J Voth (2017), “Bowling for Fascism: Social Capital and the Rise of the Nazi Party.” Journal of Political Economy 125(2): 478-526.

Voigtländer, N, and H-J Voth (2012), “Persecution Perpetuated: The Medieval Origins of Anti-Semitic Violence in Nazi Germany”, Quarterly Journal of Economics 127(2): 1339-92.

Voth, H-J (2020), “Roots of war: Hitler’s Rise to Power", in S Broadberry and M Harrison (eds), The Economics of the Second World War: Seventy-Five Years On, CEPR Press.

 

Endnotes

1 ブリューニングが4つめの(そして最後の)緊急事態令を布告してから12日後、ヒトラーは「最後の緊急事態令の大いなる幻想」と題された大衆向けパンフレットを発行した。これは、人々の鬱憤を動員して権力掌握を実現するための試みであった(フルテキストは、Hitler, Hitler an Brüning - Broschürenreihe der Reichspropaganda-Leitung der NSDAP, Heft 5, Munich: Franz Eher, 1931).

 

著作権については以下のURL参照

https://voxeu.org/pages/copyright

 

高橋是清講談(昭和編)ー昭和金融恐慌から2.26事件までー

昭和財政における高橋是清(たかはしこれきよ)の業績を皆さんに知っていただくため、講談師の玉田玉秀斎師匠に『高橋是清講談(昭和編)』を続き読みしていただきました。

 

f:id:ParkSeungJoon:20201127145156j:plain

※ 玉田玉秀斎オフィシャルページ

 http://ahs-web.com/tamadagyokusyusai/index.html

 

 脚本は朴勝俊によるものです。脚色もありますが、基本的には高橋是清の自伝や、彼に関する伝記、小説などを熟読して、できるかぎり史実に基づいて描いたものです。

 

 是清は、江戸時代末期に生を受け、少年時代から米国に留学し(奴隷生活も経験し)、生きた英語を身につけ、小学校もまともに出ていないのに国立大学の英語教師となりました。そして役人となり、芸者のお手伝いにもなり、儲け話に騙され、また役人に戻って外遊し、日露戦争の戦費を調達し、最後は総理大臣や財務大臣を歴任した、不世出の政治家です。

 昭和期の高橋是清蔵相の活躍は、昭和金融恐慌の克服と、積極財政によって日本経済を世界大不況からもっとも早く脱却させたことで、頂点を極めます。

 底の浅い財政破綻論者は、日銀の国債引き受けを用いた積極財政を、その後の日本の軍国化や大戦を引き起こした禁じ手だった、などと批判しますが、この講談を聞いていただくと、それが誤りであることが理解できるでしょう。世界不況期の金本位制復帰と緊縮財政が、日本の運命を誤らせました。蔵相に返り咲き、金本位制を停止し、大不況からの脱却を果たした高橋は、ただちに健全財政主義に転換し、自らの命を賭けて軍部の予算要求に抵抗するのです。高橋の運命やいかに!それは次の講釈で。

 

 

第一幕「昭和金融恐慌


 

 

第二幕「井上準之助の緊縮財政」


 

 

第三幕「高橋財政(前半)」


 

 

第四幕「井上対高橋 貴族院aでの大論争」


 

 

第五幕「高橋財政(後半)」


 

 

第六幕「藤井の戦死」



 

第七幕「是清の最期」


高橋是清講談第七幕 『是清の最期』

 

 

<参考文献>

幸田真音(2017)『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債【上下合本版】』角川e文庫

鈴木隆(2012)『高橋是清井上準之助 インフレか、デフレか』文春新書

スメサースト、リチャード(2010)『高橋是清 日本のケインズ―その生涯と思想』東洋経済新報社

高橋是清(1976)『高橋是清自伝(上)』上塚司編、中公文庫

高橋是清(1976)『高橋是清自伝(下)』上塚司編、中公文庫

高橋是清(2010)『随想録』中公クラシックス

高橋是清(2013)『経済論』上塚司編、中公クラシックス

高橋是清井上準之助(1932)『国民に問ふ―金輸出再禁止是非―』明治図書出版協会編輯部

松本崇(2012)『恐慌に立ち向かった男 高橋是清』中公文庫

 

野党は下手なアベノミクス批判より 独自の経済政策を

※この記事は『アジェンダ-未来への課題-』2018年冬号に掲載されたものです

 

■はじめに

 筆者は安倍政権に批判的な立場であるが、「アベノミクス批判」にはあまり関心がない。いわゆる「アベノミクス」は成功か失敗かと問われれば、この「スローガン」は安倍氏が長期政権を確立する上で大成功だったと言わざるをえない。

 この間、数多くの「アベノミクス批判」が書かれ、野党もこの「政策」の「失敗」を追及してきた。原発再稼働や「共謀罪法案」や「戦争法案」の強行採決や「モリカケ問題」など、安倍政権への支持を大幅に引き下げかねない事態もあった。にも関わらず、
内閣の支持率は二〇一八年の夏までに回復し、野党の支持率を総計しても与党の三分の一程度にも達しない事態は続いている(1)。下手な「アベノミクス批判」では政権に打撃を与えることはできないのである。

 いわゆる「アベノミクス」は、素性が異なる様々な政策措置を含み、経済学的には定義が不明瞭な用語である。漫画家の井上純一氏は、「安倍首相が好きな人は政権の経済政策のいいトコだけ見て…アベノミクス最高! 嫌いな人は悪いトコだけ見て…アベノミクス失敗!(中略)…安倍首相が好きか嫌いかで全然意味の違う言葉になってる(ママ)!」と指摘している(井上2018)。そして「嫌いな人」たちは、総じて、安倍政権の政策に対する「叩きどころ」を間違っている。

 現政権下で人々の生活状況が著しく改善したということはないが、デフレ不況が放置されて多くの人々が自ら命を絶っていた民主党政権期に比べて、安倍政権期に入っていくつかの重要な経済指標(とりわけ雇用指標)が改善していることは否めない(松尾ほか2017)。ごたまぜの「アベノミクス」にも金融緩和など「反緊縮的」な要素が一部含まれており、それが円高是正・デフレ脱却・雇用改善に一定程度の効果をもたらしたためだ。筆者は大学に勤めているが、卒業生の就職状況が一〇年前に比べて改善したことは明らかである。近年の選挙では若年層ほど自民党への投票率が高く(2)、「若者の右傾化」などと言われるが、それは的外れだ。野党やそれに近い知識人たちが「効果が見られた政策措置」を下手に批判してきたため、安倍政権以外の政権が万が一にでも成立すれば、性急な財政再建など「緊縮的」なことをやられて景気や雇用状況がもっと悪くなるだろうと、若年層を中心とする有権者に敬遠されているだけだ。

 必要なのは、デフレ不況期における「ケインズ的経済政策(金融緩和・財政支出)」の必要性・効果・副作用・出口に関する正しい理解である。景気が良くない時に緊縮策(増税、福祉カット、金融引き締め)を行うと景気が悪化して雇用状況も財政状況も悪化する。デフレが生じれば債務者の債務負担も増えるため、結局は弱者のためにもならない。

マクロ経済学に関する最低限の基礎知識の確認

 突然だが、読者のみなさんは以下の問題に答えられるだろうか。資料を参照して答えることが可能であればよいと思う。ここでは解答はしないが、菅原(2018)のような安価な入門書を参照すればひとしきり答えが確認できるであろう。

〈問題〉
(1) Y=C+I+G+EX-IMとY=C+S+Tの各記号の意味を答えなさい。
(2) 上の式からISバランス式を導出しなさい。
(3)フィリップス曲線とは何かを説明しなさい。
(4)国際金融のトリレンマを説明しなさい。
(5)ケインズ派新古典派の違いを説明しなさい。

 安倍首相は上記の五つの問題にすべて答えることができるであろう。首相は自分の経済政策に関して、原稿を見ずに演説ができ、質問に答えることもできているからだ。それは下野していた二〇〇九~二〇一二年の間にマクロ経済学を学んだためだ(野口2018、pp.62~70)。

 他方、枝野幸男さんの三時間演説(枝野2018、pp.34~37)を読んだが、彼の「(安倍政権の経済政策には)五年たってもまったく成果が出ていない」という主張を見て、彼が上記の五つの問いに答えられるのか疑問に感じた。枝野さんは、金融政策(貨幣政策)と雇用政策の関係を理解されているだろうか? 例えば米国の金融政策当局〔連邦準備〕は「最大限の雇用、物価安定、低い長期金利」を目標とするよう法律で義務づけられていることや、その意味をご存じだろうか? 物価安定目標は諸外国が採用する標準的な政策であることをご存じなのだろうか? ピケティやスティグリッツをはじめとする欧
米の左派経済学者が安倍首相の政策を評価していた理由をどう理解されているのだろうか? 果ては、民主党政権時の経済状況や経済政策の方が今より良かったと考えているのだろうか?

 枝野さんのことではないが、旧民主党の有力者・関係者の方々には、新自由主義者(あるいは財務省と新聞各社)のプロパガンダに煽られてか、怪しげな経済学者(3)の説に乗ってか、「財政破綻」や「ハイパーインフレ」の危険を煽り、量的金融緩和
政策の効果を否定し、財政健全化を求め(4)、ときに消費税増税を求める声が少なくなかった。

■世界大不況からの教訓(5)

 不況期に弱者の立場に立つべき政治家が緊縮に走ることは危険なことだ。また現代の政治において、「敵」に経済学を勉強され、効果的な経済政策を打ち出されてしまい、それに成功されてしまうことは恐ろしい結果を招く。以下にいくつか歴史的事例を示そう。

 

(1)昭和恐慌時の金本位制復帰がもたらした悲劇

 日本では伝統的に、政治家も官僚も一般市民も新聞世論も緊縮的な思想を持っているようだ。一九二九年七月に浜口雄幸内閣が発足し、井上準之助が蔵相となった。その直後に米国発の世界大恐慌の衝撃が日本にも到来した。井上はこんな時期に金本位制への復帰(金解禁)を断行した。当時のことだから無理もないが、経済学的知識を欠いた一般人も新聞も諸手を挙げてこれに賛成した。大阪毎日新聞一九二九年七月一六日の社説は、「国民は手術台の痛苦に耐えねばならぬ。伸びんがめに先ず屈せねばならぬ」とまで書き立てたのだ。だが井上は、実勢レートよりも円高となる為替レート(旧平価)での復帰を実現するために、財政支出の切り詰めを含む厳しい緊縮策(デフレを目的とする政策)を実施し、不況を深刻化させた。二年間で財政支出を一五%削減すると、国民所得は二〇%も減少したのだ。その悪影響は農村を直撃し、農民達は著しく困窮した。農村から娘の身売りが増えたのはこの頃だ。多くの有望な若者が農村を出て大学に入ったが就職状況は厳しかった。政治家や財閥に対して敵意を抱く「青年将校」や「テロリスト」が台頭したのもこの頃だ。「手術台の痛苦」は激甚だった。

 浜口首相は一九三〇年に狙撃され、一九三一年暮れに犬養毅内閣(高橋是清蔵相)に替わった。高橋は不況脱却のため、金本位制離脱(金輸出再禁止)を行い、円安を容認し、財政ファイナンス国債の日銀引き受け)により農村救済事業などを実施した。その結果、一九三三年度にはデフレ不況からの脱却が実現した。世界恐慌からの脱却は、日本が世界で最も早かったのだ。そこで高橋はインフレを抑えるために財政再建へと舵を切り、とりわけ軍事予算の縮小に尽力した。だが、そのことで軍部の恨みを買った。

 一九三二年には血盟団事件で井上や団琢磨(三井総裁)が殺害され、五・一五事件で犬養が殺害された。井上らが引き起こした経済悪化にうんざりしていた世論はむしろ、これらテロリストに味方した。その後、軍部の暴走は加速し、一九三六年の二・二六事件高橋是清が殺害され、軍事予算拡大に対する歯止めはなくなった。世界大恐慌後の「昭和恐慌」は、太平洋戦争に至る経済的な伏線だった。

 

(2)ナチスの台頭はなぜ起こったか

 ナチスの台頭の原因が、かの有名なハイパーインフレーションだったと勘違いしている人は多い。しかし、ハイパーインフレは一九二二~二三年のことであり、ナチスが総選挙で第一党となったのは一九三二年であったため、これらはほとんど無関係である。むしろナチス台頭の温床となったのは一九二九年の世界恐慌に続くデフレ不況だった。

 一九三二年総選挙において、当時は三人に一人が失業するほどの状況だったが、不況対策として有効な反緊縮政策を掲げたのはナチスだけだった。ナチスが策定した「緊急経済プログラム」は、①失業は貧困を引き起こすが雇用は繁栄を生む、②資本は仕事を生まないが仕事は資本を生む、③失業給付は経済にとって負担だが雇用創出は経済を刺激する、と謳っていた。

 他方、与党だった中央党政権は均衡財政を重視し緊縮策をとった。ある意味、ナチス以外の野党はそれ以上にひどかった。当時マルクス主義を標榜していた社会民主党(最大野党)の有力者ディットマンなどは、「われわれは現状(恐慌)がさらに進展することを望んでいます」と豪語したほどだ。恐慌が究極的に悪化すれば共産主義革命が起こるという含意であろう。言語道断である。

 選挙に勝利し、政権を握ったナチスはシャハトを経済大臣に任命し、財政・金融政策を任せた。この人物は一九二三年にハイパーインフレを即時に収束させた屈指の財政家だった。ナチスは国民車構想やアウトバーン建設などの公共事業によって、一九三四年までにデフレ不況からの脱却を実現し、失業者数も激減させた(一九三二年は五五七万人、一九三七年は九一万人)。シャハトの経済回復策は、インフレーションを起こさないよう周到に行われた。ナチスユダヤ人を迫害し、世界を戦争に巻き込むのは、劇的な経済回復の結果、人々の圧倒的な支持を得たのち、シャハトが窓際に追いやられた後の事である。


(3)ギリシャ悲劇

 現代においても誤った緊縮策が極右台頭を助長した実例がある。その一つがギリシャだ。ユーロ加盟によって為替リスクがなくなると、独仏をはじめとする銀行から多額のカネを(ユーロ建てで)貸し込まれたギリシャは、政府も民間もリーマンショックの余波により破産状態に至った(財政統計粉飾問題は、その中の一つのエピソードに過ぎない)。ギリシャに対する「救済策」(二〇一〇年~)は、実は欧州の納税者のカネで独仏の銀行を救済し、その債務をギリシャの人々の肩に負わせるものだった。「救済策」を主導したトロイカ欧州連合EU、欧州中央銀行ECB、国際通貨基金IMF)はギリシャを悪者に仕立て、懲罰的な緊縮策(政府支出カット、年金カット、増税など)を強いた。国民所得は二五%以上も減少した。医療支出もカットされ、人々の健康状態も劇的に悪化した。結果として、ナチスを信奉する政党「黄金の夜明け」が台頭した。

 日本では、民主党政権当時の菅首相は「ギリシャ対岸の火事ではない」などと発言して、消費税増税に踏み切ったが、ギリシャの事情も、日本とギリシャの背景の違いもわきまえない判断だったと言わざるをえない。


■反緊縮の経済政策を打ち出すべきだ

 では現在、野党はどのような政策を打ち出すべきだろうか。一般の有権者の関心事は、雇用、賃金、労働条件、福祉である(残念ながら、脱原発憲法・平和は重要だがそれらに劣後する)。経済状況がよくない時に、就職・債務・老後・子育てなどの経済的問題を抱えている人々を尻目に「経済より命」だとか、「成長には期待できない」といった言葉を放つのは、野党にとっては決定的なオウンゴールとなる(6)。

 安倍政権の経済政策の欠点は、金融政策は緩和的だが、財政的には緊縮的で、労働者・生活者より企業の利益を優先していることだ。財政支出は増やす約束だったが、実際は「一〇〇兆円の壁」に阻まれて増えていない。金融政策だけではデフレ脱却はできない。現下、二%の物価安定目標が達成されていないのは、二〇一四年の消費税増税の影響や、賃上げが不十分なことから、老後や結婚後(子育て、教育)の生活不安が拭えず、人々がお金を使わずに、貯め込まざるを得なくなっているためである。人々の暮らしの安心を高める福祉・医療・教育への政府支出も、財政危機論が当然視され、削る対象としか見られていないのは問題である。

 ひとびとの暮らしや、環境保護やエネルギー政策転換に必要な政府支出を大幅に増やす必要がある。消費税増税は再度延期すべきだ。貧困対策としてはベーシックインカムの導入が肝要だ。また、最低賃金の引き上げや労働時間の短縮などの労働条件の改善を行うとともに、正規・非正規の格差、男女間の格差などを解消する制度改正が求められる(松尾2016、松尾ほか2018)。

 ベーシックインカムの財源は、所得税と既存の給付の見直しで確保できる(原田2015)。その他の支出は貨幣発行益(シニョリッジ)で拡充する。言い換えれば、高橋是清のように「財政ファイナンス」を積極的に、節度をもって行うのだ。財政ファイナンスは「禁じ手」だと信じられているが、それは悪性のインフレーションが懸念されるためだ。だが、日銀に黒田総裁が就任して以来、量的緩和政策(三〇〇兆円を超える国債を日銀が買い取るという、紛れもない間接的財政ファイナンス)が行われているが、現実にはインフレの兆候さえ見えない。ハイパーインフレの懸念は幽霊である。

 なお、バブル発生への懸念は理解できるが、その原因としては、中央銀行の金融政策そのものよりも、銀行やノンバンク等が「マネーを創造」しながらリスクのある貸し出しを増やす事の方が遙かに重要であり、金融業界に対する規制を強化することの方が緊要である。

 「一〇〇〇兆円もの国の借金」というのも財務省や大新聞のプロパガンダだ。政府には債務だけでなく資産もある。中央銀行国債を買い入れる行為(量的緩和)は、「統合政府」の観点から見れば、政府の子会社である日銀が民間に対してお金を返済し、債務を消滅させる行為である(森永2017)。「量的緩和」によって、五年程度で国の借金が三〇〇兆円以上も消滅したのだ。

 もちろん、物価安定目標二%を超える物価上昇が常態化すれば、マクロ政策の方向転換が必要となる。その際には、段階的に金融と財政の引き締めを行い、課税強化(富裕層課税、金融業課税、環境課税)を行い、総需要を抑え、物価安定化に努めるのは当然のことである。しかし、労働条件や環境・福祉の改善はどんな経済状況でも可能である。

 私たちに必要なのは緊縮志向の新自由主義に対抗する、ケインズ主義に裏付けられた反緊縮の経済政策だ。欧米左派の間では、財政危機論は銀行業界の利益に奉仕する新自由主義者プロパガンダだ、という理解が浸透している。欧米で支持を集めているのは反緊縮的な左派か、反緊縮的な極右であり、中道左派社会民主党)などは支持を失っている(松尾2018)。


■結び

 誤った経済政策は、場合によっては大規模な原発事故に匹敵するほど多くの命を奪い、多くの人々の生活を混乱させ、危険な勢力の台頭や、戦争の原因ともなりうる。そのことを、命と平和を守りたいと願う人たちは強く心に刻む必要がある。歴史的教訓に学び、今、どのような経済政策が必要なのか見極めなければならない。いま、安倍政権に反対する勢力が主張すべきなのは、下手な「アベノミクス批判」ではなく、人々の生活状況を改善するための、反緊縮的な経済政策である。

 

<脚注>

(1)内閣支持率政党支持率についてはNHK放送文化研究所HPを参照。

(2)年代別投票先については、例えば、二〇一七年一〇月の衆議院選挙の出口調査(NHK NEWS WEB、二〇一七年一〇月二五日、
https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_1024.html

(3)ここで「怪しげ」とは経済学の最低限の基礎知識を欠くという意味である。ベストセラーを出版したエコノミストや、博士号や教授職を有する経済学者でさえ「怪しげ」な場合が多々ある。そういう人たちをここに列挙して批判するつもりはないが、民主党政権の経済ブレーンの一人だった水野和夫氏については筆者が具体的にその著書を批判したことがあるし(ひとびとの経済政策研究会2017)、菅直人元首相が依拠されている藻谷浩介氏については、菅原晃氏が十分に批判されている(https://blogos.com/article/29014/)。ぜひ参照されたい。

(4)旧民進党の代表だった蓮舫さんが、憲法改正として財政規律条項を含める発言をしたことがある(日本経済新聞二〇一七年五月二日)。財政黒字を法的に義務づけるようなことは、ひとびとの命を守る上で絶対にやってはならないことである。

(5)本節の記述は、岩田規久男編著(2004)、鈴木(2012)、ブライス(2015)、武田(2009)、ヴァルファキス(近刊)による。

(6)後者は、前原誠司さんが(旧)民進党のブレーンに選んだ井手英策先生の発言が代表的である。
https://facta.co.jp/article/201706027.html

 

《参考文献》
井上純一(2018)「キミのお金はどこに消えるのか【特別編】アベノミクスってナニ?」note(https://note.mu/keumaya/n/nf92f30f43c9b

岩田規久男〔編著〕(2004)『昭和恐慌の研究』東洋経済新報社

ヴァルファキス、ヤニス(近刊)『ギリシャとユーロは救えるか ギリシャ財務大臣ヤニス・ヴァルファキス回顧録明石書店

枝野幸男(2018)『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』ハーバービジネスオンライン

菅原晃(2018)『中学の教科書から学ぶ 経済学サク分かり』朝日新書

鈴木隆(2012)『高橋是清井上準之助 インフレか、デフレか』文藝春秋

武田知弘(2009)『ヒトラーの経済政策』祥伝社新書

野口旭(2018)『アベノミクスが変えた日本経済』ちくま新書

ひとびとの経済政策研究会(2017)「水野和夫氏の脱成長論を鵜呑みにすると左派・リベラルの政治勢力は自滅する」(https://economicpolicy.jp/report/

原田泰(2015)『ベーシックインカム 国家は貧困問題を解決できるか』中公新書

ブライス、マーク(2015)『緊縮策という病 「危険な思想」の歴史』NTT出版

松尾匡(2016)『この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案』大月書店

松尾匡(2018)「バージョンアップで台頭する世界のレフト」『世界は変わる対抗政治の新たな波』コンパス21刊行委員会

松尾匡・朴勝俊・ひとびとの経済政策研究会(2017)「普通のひとびとが豊かになる景気拡大政策安倍自民党に野党が勝つために」https://economicpolicy.jp/report/

森永卓郎(2017)『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』角川新書

 

PDF版はこちら

drive.google.com

【みんなのおカネの紙芝居シリーズ 第2弾】「生産性」の低い企業や労働者を淘汰して、経済を成長させるという考え方は、間違いです! ーデーヴィッド・アトキンソン氏への反論

 


【みんなのおカネの紙芝居シリーズ 第2弾】「生産性」の低い企業や労働者を淘汰して、経済を成長させるという考え方は、間違いです! ーデーヴィッド・アトキンソン氏への反論 (朴勝俊)

 

次期首相の最有力候補・菅氏からも信頼されているといわれる、D・アトキンソン氏。しかし、アトキンソン氏をはじめとする論者たちが唱える、生産性の低い中小・零細企業を淘汰して経済を成長させるという考え方は、大きな間違いです。シンプルな図式を用いて、スライドショーで説明します。

 

背景説明はこちらをご参照ください(経済学的な説明の図式は異なります)

parkseungjoon.hatenadiary.com

 

動画のレジュメは以下にアップしております。