朴勝俊 Park SeungJoonのブログ

反緊縮経済・環境経済・政策に関する雑文 

『100%マネー』第一章・要約 アービング・フィッシャー著(1935年刊)、朴勝俊訳

100%マネー

アービング・フィッシャー著、朴勝俊訳

1935年刊

※文末にPDF版を掲載しています

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$5 large-size Federal Reserve Bank Note, Series 1918(National Museum of American History - Image by Godot13)

 

はじめに

 

アメリカでは、他のいくつかの国と同様に、請求書の支払いのほとんどが小切手で行われています。

小切手を振り出す人は、小切手帳に記された口座の、「銀行に預けているお金」を引き出せるようにします。全国の小切手帳に記された金額の合計が、つまりすべての当座預金(checking deposits、銀行に預金されていて小切手の対象となる「お金」だと、一般的に考えられているもの)の合計が、米国の主な流通媒体〔広い意味でのおカネ〕を構成しています。これを実際の現金つまり「財布のおカネ」とは区別して、「通帳のおカネ」と呼ぶことにします。財布のおカネはこの2つのうちで、より基本的なものです。見ることも触ることもできます。でも通帳のお金はそうではありません。それがおカネであるとして、本物のおカネであるかのように渡すことができるのは、それが本物のおカネを「代理している」と信じられているからす。〔銀行で〕要求払いの形で小切手を「現金化」し、本物のおカネに変えることができるからです〔訳注:ここでいう当座預金は要求払い預金であって、小切手が使える以外は、普通預金と同じものと考えて差し支えありません〕。

通帳のおカネと財布のおカネの最大の違いは、後者が無記名のおカネ(bearer money)で誰にとっても有難いものなのに対して、通帳のおカネは受け取ってもらうために、受取人の特別な許可が必要なことです。

大恐慌前の代表年としての1926年には、ある推計によれば、アメリカの人々の「通帳のおカネ」の合計は220億ドルでした。一方で、米国財務省と銀行の外にある財布のおカネは、つまり国民の財布や商人の現金箱の中にある実物の無記名のおカネは、全部で40億ドルにも満たないものでした。両者を合わせると、人々がもつこの国の流通媒体の総額は260億ドルとなり、そのうち40億ドルが手渡しで、220億ドルが小切手で流通していることになります。

多くの人々は、通帳のおカネは本当にお金で、本当に銀行にあると想像しています。でも、これは事実とは大違いなのです。

では、私たちが間違って「銀行にあるお金」と呼んでいる、この不思議な「通帳のおカネ」とは何でしょうか? それは、銀行が預金者の求めに応じて(要求払いで)お金を渡すという約束に過ぎません。1926年には、220億ドルの当座預金の裏で、実際に銀行が保有していた現金は30億ドルぐらいしかありませんでした。残りの190億ドルは、お金以外の資産でした。つまり約束手形国債社債などでした。

1926年のような平時には、銀行は30億ドルぐらいの現金を持っていれば、どの預金者がいくら引き出しに来ても「現金」を渡すことができました。でも、預金者全員が一斉に現金を求めてきたら、銀行は他の資産を売却して、ある程度の現金を調達できるとしても、十分な金額を調達することは決してできません。なぜならアメリカ全体でも220億ドルに相当する現金など存在しないからです。また預金者全員が同時に金(きん)を求めてきたら、全世界から集めても十分な金を集めることはできないでしょう。

1926年から1929年の間に、流通媒体の総数は約260億から約270億へとわずかに増加しましたが、その内訳は通帳のおカネが230億、手帳のお金が40億でした。

さて1929年から1933年の間のできごとです。1929年には270億ドルの流通媒体がありました。しかし1933年になると通帳のおカネは150億ドルまで減り、財布や現金箱の「本当のおカネ」50億ドルと合わせても、流通媒体は200億ドルとなりました。260億から270億への増加はインフレーションで、270億から200億への減少はデフレーションです〔本書では物価の騰落ではなく、おカネの量の増減をインフレ・デフレと言っていることに注意〕。

1926年以降の好況と不況は、1926年、1929年、1933年の3つの年をとったとき、260、270、200という3つの数字にはっきりと現れています。

おカネの量のこうした変化は、同じような流通速度の変化によって、さらなる悪影響をもたらし。例えば1932年と1933年には、流通媒体が少なかっただけでなく、その循環が遅くなったのです。つまり、おカネの貯め込みが蔓延していたのです。

1929年と1933年のおカネの流通量はそれぞれ270億と200億でしたが、その循環回数がそれぞれ30回と20回だったと仮定すると、流通総額は1929年が27×30=8,000億ドルだったのに対して、1933年は20×20=4,000億ドルとなります。

量が変化したのは、主に預金のほうです。すでに述べたように、通帳のおカネの総額は220、230、150でしたが、現金は40、40、50でした。この不況の本質的な部分は、通帳のおカネが230億から150億へと減少したことです。つまり、みんながビジネスをするための高速道路ともいうべき流通媒体が80億ドルも消えてしまったことなのです。

人々にとって、通帳のおカネが80億ドル減った分、財布のおカネが10億ドル(つまり40から50へ)増えました。これは、人々が銀行からこの10億ドルの現金を引き出し、銀行が引き出しに応じるために80億ドルの信用〔貸付などのことを〕を破壊したことを意味します。

80億ドルもの「通帳のおカネ」の損失(破壊)は、ほとんどの人が実感しておらず、ほとんど言及されていません。2万3千キロの鉄道のうち8千キロが破壊されたとしたら、新聞の大きな見出しになったでしょう。それでもそのような災害は、私たちの主な通貨ハイウェイともいうべき、230億ドルのおカネのうち80億ドルが破壊されたことに比べれば、小さなものでしょう。人々が自分のお金と思っていたものが、80億ドルも破壊されたことは、不況において最も不吉な事実であり、そこから失業と倒産という2つの大きな悲劇が生まれたのです。

人々は、主な流通媒体230億ドルのうちの80億ドルの犠牲を強いられましたが、これは100%システムが採用されていれば避けられたことでしょう。第7章で見るように、その場合には大恐慌は起こらなかったでしょう。

通帳のおカネの破壊は、自然的で必然的なものではなく、システム(制度)の欠陥によるものでした。

現在のシステムでは、銀行は融資を行うことで「通帳のおカネ」を創造したり破壊したりしています。銀行が私に1,000ドルの融資を行い、それによって私の当座預金に1,000ドルが追加されたとき、その1,000ドルの「銀行にあるお金」は、新しく生まれたものです。それは、銀行が私への融資から新たに作り出したもので、私の通帳と、銀行の帳簿にペンとインクで書かれたものです。

すでに述べたように、このペンとインクの記録いがいには、この「お金」は実際の物理的な存在ではありません。後日、私が銀行に1,000ドルを返済する時には、私の当座預金からそれを支払います。すると私の通帳と銀行の帳簿の上で、それだけの流通媒体が破壊されます。つまり、完全に消えてしまうのです。

このように、わが国の流通媒体は、銀行の融資取引に翻弄されています。何千もの銀行は、実際のところ、無責任な民間造幣会社のようなものです。

問題は、銀行が現金を貸しているのではなく、自分が持っていないお金を、要求に応じて渡す約束をしているだけだということです。銀行はわずかな現金準備の上に、このような「信用(預金残高)」を、つまり「通帳のおカネ」を逆ピラミッド状に積み上げ、その量を増やしたり減らしたりすることができるのです。

預金者にとっても、銀行にとっても、そして何よりも何百万人もの「無実の傍観者」である一般市民にとっても、このように頭が重たいシステムが危険だということは、明らかでしょう。特に、デフレになると、人々はモノのやり取りに必要不可欠な循環媒体の一部を、奪われることになるのです。

おカネと同じ機能を持つ通帳残高の発行を銀行に認めることと、「野良猫銀行券」時代のように紙幣の発行を銀行に認めることとは、現実的にはほとんど違いがありません。それは本質的に同一の不健全な行為なのです。

当時の紙幣と現在の預金は同じようなものです。しかし、預金が目に見えない形で創造されたり破壊されたりするのに対して、紙幣は目に見える形で印刷されたり焼却されたりします。もし1929年から1933年の間に、80億枚の紙幣が焼却されていたならば、その事実が見過されることはなかったでしょう。

 主に融資に基づく当座預金(通帳のおカネ)のシステムが、現在使われている少数の国から全世界へと広がっていくと、そのあらゆる危険性がはるかに大きくなります。結局のところ、このシステムを変えない限り、将来の好況や不況は過去のものよりも悪化する恐れがあるのです。

現在のシステムの危険性やその他の欠陥については、後の章で詳しく説明します。しかし本書で提案する改善策の概要を説明するには、ほんの数行の文章で十分です。

 

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A cheque from 1905(Whitney Bank, New Orleans, Louisiana)

 

本書の提案

 

政府は、特別に創設された「通貨委員会(Currency Commission)」を通じて、すべての商業銀行が保有する資産を現金と交換して、当座預金残高の100%相当まで現金準備を増やします。言い換えれば、政府は通貨委員会を通じてこのおカネを発行し、そのおカネで銀行の債券や手形などの資産を購入したり、それらの資産を担保に銀行に貸出を行ったりするのです[1]。そうすれば「通帳のおカネ」の全額の背後に現金が、つまり「財布のおカネ」があることになるのです。

(委員会通貨または合衆国紙幣と呼ばれる)この新しいおカネは、単に当座預金の全額に現金の裏付けを与えるだけであって、それ自体が流通媒体の総額を増やすことも減らすこともありません。当座預金残高が1億ドルある銀行が、1,000万ドルの現金しか持っていなかった(残りの9,000万ドルは有価証券として保有していた)場合、この9,000万ドルの有価証券を通貨委員会に送り、9,000万ドルの現金を受け取ることによって、現金準備の総額は1億ドルに、すなわち預金残高の100%になります。

銀行は、有価証券と現金との入れ替えが完了した後は、要求払い預金(demand deposits)の金額に対して100%の現金準備を保ち続けることを求められます。こうなれば、要求払い預金は本当の意味での預金となり、預金者が託した現金ということになるのです。

こうして、新たに生まれるおカネは実質的に100%準備義務と結び付けられます。

銀行の当座預金部門は、預金者が所有する「無記名のおカネ」の保管倉庫となり、「小切手用銀行(Check Bank)」として独立の法人格が与えられます。そうなると、当座預金と準備預金の間には実質的な区別がなくなります。通帳に記された、「私が銀行に預けているおカネ」は、本当におカネであり、本当に銀行に(または近くの支店に)あることになります。銀行の預金を1億2,500万ドルまで増やすには、銀行の現金も1億2,500万ドルまで増やさなければなりません。つまり、預金者が2,500万ドル以上の現金を預けることで、つまり財布や現金箱からそれだけの現金を取り出して銀行に預けることによって、1億2,500万ドルになるのです。また、預金が減少した場合には、それは預金者が預けていたおカネの一部を引き出したことを、つまり銀行から取り出して財布や現金箱に入れたことを意味します。どちらの場合もおカネの総額に変化はありません。

100%システムに移行することによって、銀行は収益資産を失い、収益性のない現金を増やさなければなりません。それに対する補填としては、銀行が預金者からサービス料を徴収できるようにするか、それ以外の方法が検討されます(第9章で詳しく説明します)。

 

 

メリット

 

変更の結果として、一般の人々には以下のようなメリットがあります。

 

1. 商業銀行に対する取り付け騒ぎが無くなります

なぜなら、預金者のおカネの100%が常に銀行の中にあり、いつでも彼らが引き出すのに備えているからです。実際には、今よりもおカネが引き出されることは少ないでしょう。預金を失うことを恐れた預金者が、銀行の窓口で叫ぶ言葉を、みなさんご存じでしょう。「銀行は、私のおカネがないなら、すぐに出しなさい! 私のおカネがあるなら、出さなくてもいい!」。

 

2. 銀行の倒産ははるかに少なくなります

なぜなら、商業銀行を倒産させる可能性が一番高い、重要な債権者は預金者ですが、彼らの預金が100%保護されることになるからです。

 

3. 政府の有利子負債は大幅に削減されます

なぜなら、発行済み国債の大部分が(政府を代表する)通貨委員会によって、銀行から買い上げられるからです。

4. 通貨制度が簡素化されます

なぜなら、財布のおカネと通帳のおカネの間には、もはや本質的な違いはないからです。私たちの流通媒体は、100%が実際のおカネになるのです。

 

5. 銀行業務が簡素化されます

現在は所有権が混乱しています。当座預金におカネを預けたとき、預金者はそのおカネを自分のものと考えていますが、じつは法的には銀行のものなのです。預金者は銀行にあるおカネの所有者ではなく、民間企業である銀行に対する債権者に過ぎないのです。銀行が顧客から預かったおカネを貸し出すことができなくなり、同時に預金者がそのおカネを自分のおカネとして、小切手で使えるようになれば、銀行の「謎」のほとんどは消えてしまうでしょう。「ミスター・ドゥーリー」(いまのウィル・ロジャースにあたる人)は、銀行員を「あなたのおカネを保管しつつ、友人に又貸しする人」と呼んで、要求払い預金のおカネが二重に使われることの不条理さを訴えました。

将来的には、当座預金(checking deposits)と貯蓄預金(savings deposits)は明確に区別されることになるでしょう。その他の保管庫と同様に、当座預金に預けられたおカネは預金者のもので、利息はつきません。貯蓄預金口座に入れられたおカネは、現在と同様のままです。おカネが銀行のものであることに、議論の余地はありません。銀行はこのおカネと引き換えに、利息付きで返済を受ける権利を与えますが、小切手を使う権限は与えません。貯蓄預金の預金者は単に、利付債のような投資対象を購入したことになります。そして債券や株式などの投資対象と同様に、この投資の背後には100%の現金準備がなくてもかまいません。

当座預金に新制度が導入されても、貯蓄預金の現金準備率は必ずしも変える必要はありません(もちろん、準備率を高めることは望ましいことですが)。

 

6. はげしいインフレーションやデフレーションがなくなります

なぜなら銀行は、「通帳のおカネ」を作ったり壊したりする、今もっている力を奪われるためです。つまり、融資が行われても流通媒体は膨張せず、融資資金が返済されても流通媒体は縮小しないのです。当座預金の量は、他の種類の融資が増えても減っても、何の影響も受けないでしょう。当座預金はこの国の現金総額の一部であり、この総額は、ある人から別の人にたいして貸付けが行われても、影響を受けることはありません。

預金者が一斉に預金の全額を引き出したり、一斉に融資の全額を返済したり、あるいは一斉に融資の全額を債務不履行(デフォルト)したとしても、それによって国内のおカネの総量が影響を受けることはありません。それはただ再分配されるだけです。その総額は、唯一の発行者である通貨委員会がコントロールするのです(通貨委員会は、必要ならば、おカネの貯め込みや流通速度を取り扱う権限も与えられます)。

 

7. 好況や不況は大幅に緩和されるでしょう

なぜなら、これらはインフレとデフレ〔通貨量の膨張と収縮〕によるところが大きいからです。

 

8. 産業界を銀行家が管理することはほとんどなくなるでしょう

なぜなら一般に、産業が銀行家の手に落ちるのは、不況の場合に限られるからです。

 

この8つのメリットのうち、最初の2つは、銀行の倒産が多いアメリカによく当てはまるものです。残りの6つは、小切手用の預金を扱う銀行が存在する全ての国に当てはまります。7番目と8番目のメリットは、特に重要です。すなわち、流通媒体のインフレとデフレがなくなるので、一般的には好況や不況が緩和されます。特に、大きな好況や不況は、なくすことができるでしょう。

 

 

異論

 

当然のことながら、100%マネーや100%バンキングなどという新しいアイデアや、新しいと見られるアイデアは、批判にさらされるべきものです。

100%システムに疑問を持つ人が、最も多く質問すると思われるのが、次の質問です:

 

1. 100%システムへの移行によって、つまり新しいおカネで資産を買い上げることによって、ただちに国内の流通媒体が大幅に増えるのではないですか?

いいえ、1ドルたりとも増えません。それは単に「通帳のおカネ」と「財布のおカネ」を完全に交換できるようにするだけです。取引に使われている架空の預金を、本物の預金に変えるだけです。

移行後は(そして予定された通貨量に達した後には)、通貨委員会は債権を買うことによっておカネの量を増やし、債権を売ることでおカネの量を減らすことができます。ただし、いずれの場合にも、目標とされる物価水準や通貨価値を、合理的な精度で維持する義務があります。

しかし次のことは指摘しておくべきでしょう。100%の準備金を維持することと、安定した物価水準を維持することは、まったく別のことがらです。そしておそらく、どちらか一方が欠ければ、もう一方も成り立たないことになるでしょう。

 

2. 新しいおカネの「背後」には、価値のある資産があるのでしょうか?

100%システムを採用した後には、小切手に使える新しいおカネの背後には、主に国債などの資産があります。これらは、それまでの「通帳のおカネ」の背後にあったものと全く同じ資産ですが、通貨委員会が所有するものとなります。

無謀なインフレーションを防ぐためには、おカネや預金には有価証券による「裏付け」が必要だという考えは、伝統的なものです。(私たちが対比のために「10%システム」と呼ぶ)現在の制度では、預金者が現金を引き出せないのではないかと心配した時には、銀行は(理屈の上では)有価証券を売却して現金に換え、興奮する預金者にその現金を支払うことができます。まさに100%システムでも全く同じように、有価証券の裏付けと、その有価証券を売却できる可能性があります。そのうえ、米国政府の信用も付いてくるのです。何より、預金を現金に換えられないのではないかと心配する預金者も、いなくなっているでしょう。

 

3. 金本位制が失われるのではありませんか?

金本位制はすでに失われてしまっています! それ以上でもそれ以下でもありません。金の地位は現在と全く同じものになるでしょう。金の価格は政府が管理し、金の使い道はもっぱら国際収支の決済に限られます。

そのうえ、1933年以前にあったような金本位制への復帰をお望みならば、100%システムでも現在と同様に、簡単にそれを実現できます。むしろ100%システムのほうが、旧来の金本位制が復活した場合に、意図したとおりにそれが機能する可能性が、はるかに高くなります。

 

4. 銀行は貸出しに使うおカネをどうやって得ればよいのですか?

現在と全く同じです。要するに、(1)自分のおカネ(資本金)から、(2)顧客から預かった(小切手には使えない)おカネから、あるいは(3)満期になった融資の返済金から、です。

長期的には、おそらく貸し出されるおカネはもっと多くなるでしょう。貯蓄が増えて、貸出しに使えるお金が増えるからです。しかし、ふつうに貯蓄が増えることによって融資が拡大したとしても、必ずしもおカネの流通量が増えるわけではありません。

銀行の貸出しに対する唯一の新たな制約は、当たり前の制約です。つまり貸せる現金がなければ、現金を貸すことはできないということです。銀行はもはや、無からおカネを創って貸出しを増やして、通貨量を膨張させたり、好景気を演出したりすることは、できなくなるのです。

上記の3つの融資資金源(資本金・貯蓄・返済)の他に、通貨委員会が新しいおカネを作って、〔銀行から〕債券を買い入れることによって、それを銀行に渡すこともできます。しかし、こうやっておカネを追加することには、物価上昇を防ぐという基本的な制約があります。この物価は、適切な物価指数によって測定され、目標とする水準が事前に定められます。

 

5. 銀行家が損害をこうむるのではありませんか?

いいえ、その反対です。

(a) 健全な通貨システムと繁栄の回復によって、全国にもたらされる普遍的な利益を彼らは共有することができます。特に貯蓄預金が増加します。

(b) 現金準備の増加を義務づけられたことによる利益の損失は、(手数料その他の方法で)補填されます。

(c) 将来は、銀行の取り付け騒ぎや倒産のリスクから、ほぼ完全に解放されるでしょう。

 

銀行家たちは、1931年から33年のあいだに流動性(現金)を激しく奪い合って疲弊したことを、すぐに忘れることはないでしょう。誰もが自分のためにしたことが、悪魔のためになっただけでした。100%システムの下では、このような奪い合いはあり得ません。なぜなら、それぞれの銀行はいつでも100%の現金を、他の銀行がどう動くかに関わらず、確保できるからです。

 

6. この計画は、おカネと銀行の国有化のための計画なのですか?

おカネについてはそうですが、銀行についてはそうではありません。

 

 

結論

 

100%システムの提案は、まったく急進的なものではありません。基本的には同じおカネを8回も10回も貸すという、現在の異常で破滅的なシステムから、昔の金細工師(goldsmiths)のような、保守的な安全保管システムに戻すことを求めているだけです。彼らは、かつては安全な保管を請け負っていただけでしたが、やがて不適切な貸付を行うようになります。このような信頼の濫用が、標準的な慣行として受け入れられ、現代の銀行預金制度に発展したのです。公共政策の観点からすると、これはもはや信頼の濫用ではなく、預金と融資の機能の濫用というべきです。

イングランドでは、約1世紀前に銀行法が制定され、一定の最低限度額を超えて発行されたすべてのイングランド銀行券に対して(そして当時あった他の全ての発券銀行の紙幣)に対して、100%の準備金を要求することで、改革と、金細工師の制度への一部復帰を実現しました。

プリンストン大学のフランク・D・グラハム教授は、100%マネー計画を支持する声明の中で、アダムス大統領が「私的銀行券の発行を、国民に対する詐欺だと非難した。彼は当時の保守的意見の全てによって支持された」と述べています。

最後になりますが、なぜ政府の特権を銀行にタダで譲り渡すようなことを続けるのでしょうか。その特権は合衆国憲法(第1条第8項)に、「議会は貨幣を鋳造し[そして]その価値を調節する...権限を有する」と、定義されているものです。この文言どおりではないとしても、事実として、おカネを鋳造しているのは、当座預金を扱う銀行です。そして、これらの銀行が全体として、全てのおカネの価値を調節し、管理し、動かしているのです。

現在の通貨制度を擁護する人たちも、何千件もの私有の中小造幣所による無茶で勝手な仕組みのもとで、この通貨制度がうまく機能していたと主張することはできません。もしうまく機能していたら、230億ドルの通帳のおカネうち、80億ドルが失われてしまうようなことはなかったはずです。

もし銀行が、政府よりも優れた能力を発揮できるバンキング機能(融資業務)を持ち続けたいのならば、政府よりも優れた能力を発揮できない貨幣発行機能を返還する用意をしなければなりません。もし彼らがこのことを理解し、自分たちにとって新奇な提案に見えるものに対しても、このたびは「ノー」ではなく「イエス」と言うならば、他のところから重要な反対意見は出てこないでしょう。

 

 

PDF版『100%マネー』第一章・要約は以下からDLして頂けます。

引用・転載される際は、必ず出典を明記して下さい。

drive.google.com

クロス表とベイズの公式に基づく新型コロナPCR検査抑制論の検討(授業用資料)Ver.2 (PDFはVer.4)

 日本のPCR検査数(人口比)は先進国で最下位レベルです。ニュージーランドや台湾、韓国、中国などは少数でも感染者が見つかれば大量のPCR検査と隔離を行い、感染ゼロを目指していますが、日本は「専門家」たちがPCR検査の精度が低い、徹底的な検査を行うとニセ陽性が出るのでよくない、などと言う説を流布し、政府もそうした説明に影響されて住民に対する検査は徹底されていません。例えば、2021/7/1~8/16までの、東京都(人口1400万人の検査数は計54万2781件、陽性者数11万1699件、陽性率約20.6%です。他方で、東京オリンピックの選手・関係者の数万人には世界水準の徹底した検査と隔離が行われてきました(2021/7/1~8/16までの総計で73万0979件、陽性件数204件、陽性率約0.03%)[1]。


 今回はクロス表とベイズの公式に基づいて、PCR検査の精度についてやさしく学び、コロナ対策について考えてみましょう(途中の数式展開など、完全に分からなくてもかまいません)。

 

※Ver.2ではPCR検査の事例を少し加筆修正しました。また、添付のエクセルシート「PCR検査の正確さ分析シート」で特異度を簡単に求められるようにしました。

※Ver4では、東京五輪の検査が唾液抗原定量検査・唾液PCR検査・鼻咽頭PCR検査の組み合わせだというご指摘をいただき、数値例を昨年7月のJリーグ検査に変えました。ブログ本文はver.2のままで、PDF版のみver.4に差し替えています。

 

全文PDF版(ver.4)はこちらからDLできます。

drive.google.com

PCR検査の正確さ分析シートはこちらからDLできます。

docs.google.com

 

■ 感染とは何か
 PCR検査はウイルスの遺伝子を数億倍から数兆倍に複製して検出する検査です。日本において、PCR検査抑制論者の中には「検査の陽性者は感染者ではない」と主張する人がいます[2]。一般に感染という用語は、体内で病原体が増殖するようになることと定義されるので、もっともな議論にきこえます。しかし新型コロナは無症状でも他人に伝染するなどの特徴があり、慎重な扱いが求められます。国立環境研究所等の「病原体検査の指針」では「病原体が検出された場合、検体採取時点における感染が確定される」としています[3]。NHKのサイトでは、陽性などという言葉を使わずに、ただ「感染者数」として記録しています。
 この授業では、正しく行われたPCR検査での陽性を、被験者の体内から遺伝子が見つかったと、つまり体内にウイルスがいたという意味で感染と同じように用います。それが体内で増殖するか、他の人に伝染するかは関係ないものとします。他方、ニセ陽性は、被験者の体内にはウイルスはいないのに陽性になったという意味であり、これは他の被験者のウイルス遺伝子が間違って混入するなど、検査が正しく行われなかった場合のこととします。


 まず下の表のとおり整理します。アルファベットの上に横線が引いてあるものは否定を意味します(感染(A)の否定が非感染(nA)であり、陽性(B)の否定が陰性(nB))。人数がNです(※表ではAやBの文字の上に横線で記していますが、このブログの地の文ではこの記号が使えませんので、否定の意味をnで表しnA、nBとします。PDFファイルは正しく記されています)。

 

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表1に基づいて、検査の結果に関係する用語と計算式を整理したものが表2です。

 

PCR検査抑制論: 陽性者のほとんどはニセ陽性?
 PCR検査抑制論者は、PCRは精度が低く、陽性者のほとんどはニセ陽性なのだから、検査を増やすとニセ陽性者の入院が増えて、医療崩壊が起こる、などと主張してきました。ここでいう精度については、「感度」と「特異度」という指標に特に注目しましょう。上の表にあるとおり、感度は感染者が正しく陽性判定される率、特異度は非感染者が正しく陰性判定される率です。

 PCR検査抑制論者は、新型コロナが日本にも上陸した2020年の春ごろから、この感度は70%程度、特異度は90~99.9%程度しかないと主張していました[4]。実際には、後で見るように特異度がこんなに低いことはありませんが、極端な例として特異度90%で考えてみます。

 人口1万人の場合に、有病率が1%として、感度70%、特異度90%に合致するのは以下の数値例です(文章と表の数字を照らし合わせて、よく確認してください)。

 

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この場合のニセ陽性はいくらになるでしょうか? 陽性者数N(B)が1060人ですから、そのうちのわずか70人(6.6%)が本当の陽性、990人(93.4%)がニセ陽性ということになります(確認してください)。だから検査を増やすべきではないというのが検査抑制論です。

 

ベイズの公式を用いて
 上のような例を用いた検査抑制論は、ベイズの公式を用いてまことしやかに広められました。ベイズの公式を用いれば陽性的中率を一発で計算することができるのです。

 

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 ここで条件付き確率を定義します。ある事象Aが確定したあとで、そのうちさらにBが決まる確率を条件付き確率といい、P(B|A)と書きます(P(B) given (A)と読みます、書き順に気を付けてください)。ここでは、表4の左上のセルだけに注目してください。例えば、感染(A)していることが分かっている人々が、ためしに検査をしてみて実際に陽性(B)となる確率はP(B|A)となります(条件Aが後ろに書かれます)。感染者数N(A)をかけると、感染者で陽性の人の数はP(B|A)×N(A)となります。逆に、陽性(B)となった人が、感染(A)している確率はP(A|B)となります。ここで陽性者数N(B)をかけると、陽性で感染している人の数はP(A|B)×N(B)となります。どちらの計算をしても、その数は等しいので、
P(A|B)×N(B)=P(B|A)×N(A)
が成立します。この両辺をNで割ると、
P(A|B)×N(B)/N=P(B|A)×N(A)/N、ただしN(B)/N=P(B)、N(A)/N=P(A)なので
P(A|B)×P(B)=P(B|A)×P(A)
となります。この式の両辺をP(B)で割ると、陽性的中率を求める公式が、

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として得られます。これがベイズの公式です。ところで、陽性になる確率P(B)は、感染(A)となったうえでさらに陽性になる確率P(B|A)×P(A)と、非感染(nA)となったうえでさらに陽性になる確率P(B|nA)×P(nA)との和です(𝑃(𝐵)=𝑃(𝐵|𝐴)×𝑃(𝐴)+P(𝐵|nA)×P(nA))。従って、

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が導かれます。この式には、計算に必要な要素が全て含まれることがわかります。

※(1-特異度)の部分について説明すれば、特異度とは非感染者がたしかに陰性になる確率P(nB|n𝐴)のことですが、式の分母のP(𝐵|nA)は非感染者が陽性になる確率なので、P(nB|nA)+P(𝐵|nA)=1より、P(𝐵|n𝐴)=1− P(nB|n𝐴)=1-特異度、となることから、これが得られます。

 

 この式に先の数値例より有病率=0.01、感度=0.7、特異度=0.9を代入しましょう。ただし有病率は、本当の値はよくわからないので、仮定としての「事前確率」とします。

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従って、表3の数値例を表計算した結果とおなじになったことが分かります。

 

■ 再検査すると?

 さて、1回目の検査の結果として陽性的中率が6.6%となりました。ここで2回目の検査を行うとどうなるでしょうか? 陽性となったことで、有病率の事前確率がもとの1%から6.6%(0.066)まで上がったと考えられますので、これを代入すると以下のようになります。

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さらにもう一回、有病率の事前確率を33.1%に更新して検査をすると、

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つまり77.6%まで陽性的中率が上がることが分かります。これをベイズ更新といいます。

 

■ 有病率が下がると?

 先に見たように、有病率=0.01、感度=0.7、特異度=0.9のとき、陽性的中率は6.6%でした。有病率がさらに低下し、0.001(0.1%)になったらどうなるでしょうか?

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 陽性的中率は0.7%まで低下します。つまり99.3%はニセ陽性になるわけです。このような理由から検査抑制論者は、有病率(事前確率)が低い時にはむやみに検査を増やすべきではないと主張します。もっともらしい主張ですが、それは本当でしょうか?

 

■ 特異度が100%ならば?
 実はPCR検査は、検体が正しく採取されているならば、技術的には感度100%、特異度100%です(詳しくは[5])。少しでもウイルスの遺伝子があれば大量複製して発見できて陽性となり、ゼロならばいくら複製してもゼロなので陰性となります。ただし臨床では感度は、感染者の検体が良いタイミングで確実な方法でとれない場合も考慮すると95%前後とされます。特異度は非感染者の検体が汚染されるなど、めったにない状況を考慮しても、あとで確認するように実績値としてほぼ100%です。では、特異度が1なら先の計算はどうなるでしょうか? 分母にある(1-特異度)=(1-1)=0になりますから、この項が消えて、

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です。

 つまり特異度が100%なら、感度や有病率に関わらず陽性的中率は常に100%になります。ニセ陽性はいなくなるのです。これがPCR検査の信頼性であり、日本以外の諸外国がPCR検査を徹底的に行っている理由です。

 

■ 実際に特異度は100%なのか?

 しかし、どんな検査も特異度100%はありえない、と信じている「専門家」は少なくありません。では、PCR検査の実際の特異度を確認してみましょう。数値例には、最初に出てきた東京都とオリンピックの実績値(2021/7/1~8/16)を使います。
東京オリンピックでは選手や関係者に対して、無症状でも徹底した検査と隔離が行われました。総計73万0979件のうち、陽性件数204件、陽性率約0.03%(正確には0.0279%)でした(同じ人に何度も検査がなされたので、人数ではなく件数と呼びます)。有病率(事前確率)はこの陽性率を参考に0.03%(つまり73万0979×0.0003≒219件が検査時点で感染、残りの73万0760件が非感染)としましょう。この情報に、感度と特異度の想定値を入れれば、2x2表を再現することができます。まず、感度70%、特異度90%ならどうでしょう。

 

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 この場合、陽性になるのは感染の70%にあたる154件と、非感染の10%にあたる7万3076件の、合わせて7万3229件、ニセ陽性率は99.8%となるはずです。実際の陽性数204件とは全く違います。これは、感度70%、特異度90%という設定が間違っているということです。
 では感度95%、特異度100%で計算してみましょう。

 

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 陽性数は208件となり、実際の陽性数204件とほぼ同じになります。そしてニセ陽性はゼロになります。ちなみに特異度を99%や99.9%に高めても、あり得ないほどたくさんの陽性とニセ陽性が出ます(99%の場合は陽性7516件のうち97.2%がニセ陽性、99.9%の場合でも陽性939件のうち77.8%がニセ陽性となります。興味があれば同様の手続きで確認してみてください)。したがって、特異度は100%だと考えるのが妥当です。PCR検査はこれほど精度が高い検査なので、世界で広く用いられているのです。

 念のため、特異度100%がまだ信じられない人のために、実際の感染はゼロで、陽性は全てニセ陽性という無理な仮定をして特異度を計算してみましょう。表7を描くことによって、特異度は73万0775÷73万0979=99.97%です。PCR検査の実際の特異度がこれより低いことはありえません。

 

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練習問題:
 東京都は2021年7月1日から8月16日の間に、検査数総計54万2781件、陽性者数11万1699件、陽性率20.6%でした。東京都民には、徹底的に無症状の人や濃厚接触者以外にも大量に検査するというようなことは行われていませんので、検査の対象になった人は、ほぼ感染していそうな人たち(事前確率が高そうな人たち)でした。陽性率を参考に事前確率を0.2と設定して、感度70%、特異度99%の場合と、感度95%、特異度100%の場合に分けて表を書き、それぞれの陽性者数と陽性的中率を求めましょう(この場合も、特異度100%が妥当であることが確認できます。ただし、事前確率が高いので、特異度が低い場合でも陽性的中率が高く、ニセ陽性がそれほど出ないことも分かります)。

※練習問題の解答はこの記事の最後にあります。

 

参考:
[1] ・東京都「新型コロナウイルス感染症検査実施件数」「新型コロナウイルス感染症確定日別による陽性者数の推移」
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000010d0000000086
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000010d0000000087
・TOKYO 2020 COVID-19 Positive Case List, Tests and Total Confirmed Positives
https://olympics.com/tokyo-2020/en/notices/covid-19-positive-case-list
[2] 例えば、本間真二郎(2020)「新型コロナ「検査の陽性者」=「感染者」ではない…!PCR検査の本当の意味」『現代ビジネス』2020.09.03 (https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75285
[3] 国立感染症研究所ほか(2021)『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第3.1版』 p.5 (https://www.mhlw.go.jp/content/000768499.pdf
[4] 山中たつはる「ベイズの定理を悪用し、コロナウイルスPCR検査の有用性を否定する医師達」ブログ臨床獣医師の立場から(https://tatsuharug.com/abuse-bayes)。このページに名前が挙げられている医師には、[特異度90%] 東京大学公共政策大学院・鎌江伊三夫特任教授、東北大学大学院医学系研究科発達成育医学講座胎児医学分野研究室長・室月淳氏、[特異度99%] 九州大学教授・馬場園明氏、東北医科薬科大学病院感染症内科・福家良太氏、感染症専門医・岩田健太郎氏、診断病理医・峰 宗太郎氏、医療法人社団悠翔会・佐々木淳氏、[特異度99.9%]感染症専門医・忽那賢志氏、新型コロナウイルス感染症対策分科会会長・尾身茂氏、東邦大学医学部・東邦大学医療センター大森病院教授・中田雅彦氏がいます。次の電子書籍も参照: 山中たつはる(2021)『コロナ禍で見えてきた おかしな専門家と知識人』リーダーズノート出版
[5] 牧田寛(2021)『誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?』扶桑社、p.223、p.224

 

<他の参考事例>

・上記の東京オリンピック関係者検査、73万0775件検査して陽性204人。

 (https://olympics.com/tokyo-2020/en/notices/covid-19-positive-case-list

 →本文では、事前確率0%として全員ニセ陽性と仮定しても特異度99.97%以上としましたが、

 事前確率を検査陽性率と同じ0.0279%として最低限の特異度を求めても99.9987%以上です。

・2020年7月の日本のJリーグの検査(7/25発表)、3300人を検査して1人が陽性、

 (https://www.jleague.jp/news/article/17454

 →事前確率を0%とし、全員ニセ陽性と仮定しても特異度99.970%以上。

 →事前確率を検査陽性率と同じ0.03%とし、最低限の特異度を求めても特異度99.9982%以上。

・2020年はじめ、中国の武漢で約137億円かけて989万9828人にPCR検査を実施、

 無症状感染者300人を確認、陽性率は0.00303%。

 (山中たつはる(2021)『コロナ禍で見えてきた おかしな専門家と知識人』リーダーズノート出版、位置157)

 →事前確率を0%とし、全員ニセ陽性と仮定しても特異度99.99697%以上。

 →事前確率0.003%とし、最低限の特異度を求めても99.9998%以上。

・2020年秋、中国の天津で約1000万人を検査、980万人の結果のうち12例が陽性。

 (https://www.qingdao.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00392.html

 →事前確率0%として、全部ニセ陽性と仮定しても特異度99.99988%以上。

 

 

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【翻訳】イベルメクチン:COVID-19という新たな 世界的惨事に対する有効性が示された ノーベル賞受賞の多面的薬剤

サンティン、シャイム、マカロフ、ヤギサワ、ボロディ「イベルメクチン:COVID-19という新たな世界的惨事に対する有効性が示されたノーベル賞受賞の多面的薬剤」翻訳 ver.1 (2021/8/7)

翻訳:朴勝俊(関西学院大学教授)

これは,論文が受理された後に,表紙やメタデータの追加,読みやすさのためのフォーマットの変更などを行った論文のPDFファイルですが,まだ最終的な記録ではありません。このバージョンは、最終的な出版物になるまでに、さらにコピーやタイプセット、レビューを受けることになりますが、論文の早期公開のためにこのバージョンを提供しています。制作過程において、内容に影響を与えるような誤りが発見される可能性があり、ジャーナルに適用されるすべての法的免責事項が適用されることをご了承ください。

© 2021 The Author(s). Published by Elsevier Ltd.

 

※原論文の参考文献のうち22番は取り下げられています。ご注意ください。

※専門外のため誤訳がありうることをご了承頂き、正確な内容は原典でご確認ください

※文末にPDF版があります

 

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概要

2015年にノーベル生理学・医学委員会は、感染症の治療に関する60年ぶりの賞を、世界で最も壊滅的な熱帯病に対して使用されている多面的薬剤イベルメクチン(IVM)の発見に与えた。2020年3月に、新たな世界的疫病であるCOVID-19に対してIVMが初めて使用されてから、これまで20件以上の無作為化臨床試験(RCT)が入院および外来治療に対して行われてきた。2021年に報告されたIVM治療に関するRCTの、7つのメタアナリシスのうちの6つで、COVID-19による死亡者数の顕著な減少が認められており、死亡率の平均相対リスクは対照群に対して31%であった〔訳注:死亡率が3割程度に低下する〕。最大量のIVMを投与したRCTでは、対照群と比較して死亡率が92%減少した(被験者総数400名、p<0.001)。ペルーで行われた大規模なIVM治療では、最も大規模な処置が行われた10州において、30日間における過剰死亡が平均74%減少した。死者数の減少は25州すべてにおいて、IVM配布の程度と相関していた(p<0.002)。また、SARS-CoV-2などのベータコロナウイルスの2つの動物モデルにおいても、IVMによる罹患率の大幅な低下が確認された。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に競合的に結合することが、IVMの生物学的メカニズムであるが、これはエピトープ特異的なものはないと考えられ、新たに出現したウイルスの変異株に対しても十分な効果を発揮する可能性がある。

 

はじめに

2015年の、イベルメクチン(IVM)と抗マラリア薬の発見に対するノーベル賞は、感染症の治療薬を対象にしたものとしては、1952年にストレプトマイシンが受賞して以来の受賞となった[1]。多面的な効力を持つ大環状ラクトン[2,3]であるIVMは、1987年から世界中で使用され、オンコセルカ症とリンパ系フィラリア症という2つの壊滅的な熱帯病に対して大きな前進を見せた[4]。さらなる世界的な惨劇に対してIVM治療が開始されてから、1年が過ぎた。COVID-19のIVM治療が初めて実施されてから1年の間に、COVID-19のIVM治療に関する20件以上の無作為化臨床試験(RCT)の結果が報告されており[2,6,7]、25カ国でCOVID-19の入院および外来治療が行われた[2]

IVMの発見でノーベル賞共同受賞者となった大村智博士らは最近、COVID-19に対するIVMの臨床活動を包括的にレビューし、死亡率と罹患率の大幅な低下を示す証拠が圧倒的に多いと結論付けた[2]。我々のレビューも、新たな複数の研究に関する検討を加えた上で、この結論を支持している。

 

SARS-CoV-2および近縁種であるベータコロナウイルスのIVM治療に関する動物実験

 COVID-19に対するIVM治療の臨床結果を検討するための枠組みとして、関連する動物実験で、ヒト相当で低用量のIVMを用いたものがある。ゴールデンハムスターSARS-CoV-2を鼻腔内接種し、COVID-19の症候性感染を引き起こしたさい、IVMを同時に投与することで臨床症状の重症度が有意に低下した(p<0.001)。ウイルス量は減少しなかったものの、無嗅覚症の発生率が3分の1になり、肺組織のIl-6とIl-10との比率が大幅に減少するなどの改善が見られた[10]。別の動物モデルでは,マウスにマウス肝炎ウイルスMHV-A59[11]を感染させた[8]。これはSARS-CoV-2やSARS-CoV,MERSと同様に,ヘマグルチニン・エステラーゼ[12]を発現しないベータコロナウイルス株である。感染マウスでは病理組織学的に重度の肝障害が見られたのに対し、IVM治療を受けたマウスでは肝ウイルス量が半分になり、肝障害も最小限に抑えられ、非感染の対照マウス群で観察されたものと有意差はなかった。

 

COVID-19のIVM治療および予防に関するRCT

上に引用したように、COVID-19のIVM治療に関するRCTは、現在までに20件以上行われている。2021年に登場した、COVID-19のIVM治療研究のメタアナリシスをGoogle Scholarで検索すると[13]、RCTのみから結論を導いた研究が7件あった[6,14-19]。これらのうち4件では、コクランの分析手法を用いて算出された、IVM治療群と対照群の死亡率の相対リスク(RR)は0.25~0.37で、平均は0.31であった[6,14,15,19]〔訳注:これは死亡率が約7割下がったことを意味する〕。他の3つのメタ分析では、オッズ比がそれぞれ0.16、0.21、0.33で、平均0.23であった[16-18]〔訳注:オッズ比は死亡と治癒の比率(オッズ)を、治療群と対照群で比較したものであり、この平均値は対称群と比べてオッズがおよそ4分の1に下がったことを意味する〕。これら7つのメタアナリシスのうち6つは、COVID-19の死亡率を減少させるIVMの有効性について有意[6,14-16]あるか、その可能性がある[17,18]と結論づけている。そのうち1つのメタアナリシスは、その最初のバージョン[20]ではIVMの有効性を示す証拠はないとし、IVM治療と対照のRRを1.11と報告していたが、このRR値を0.37に変更して〔括弧:死亡率が約3分の1になることを認めて〕、ひとつ研究[21]に関して治療群と対照群の死亡数を取り違えていたのを訂正した後も、同じ結論に拘泥していた[19]。これら7つのメタ分析のうちで最も新しく包括的なものは、11のRCTから得られたIVM治療群の被験者1,101人の死亡数31人と、対照群の被験者1,064人の死亡数91人の合計をプールしたものであるが、これは死亡率の67%の減少を意味当し、全体的な効果の統計的な有意性はp=0.005であった[16]。最大量のIVMを使用したRCTでは、1~4日目の各日に400μg/kgを投与したが[22]、治療群と対照群(各200人)の死亡者数は2対24で、COVID-19による死亡率は92%減少した(p<0.001)。

上記のようにCOVID-19のIVM治療の有効性を示す臨床的証拠が圧倒的に多いことに対して、2021年の時点で異議が唱えられていたのは、これらのRCTのいずれも「主流の査読付き学術誌」に掲載されていなかったためである[23]。しかし、このギャップを埋めるごとく、2021年にCOVID-19治療に関する5つのRCTが主要学術出版社の雑誌に発表された[24-28]。また2021年には、COVID-19のIVM治療に関する他の3つのRCTが発表された。そのうちの1つはIVM治療の方が、入院期間が短いことを報告したが、統計的有意性が不足している(p=0.08)[29]。IVMを他の2つの薬物治療群と比較した研究は、プラセボ群との比較は行わず、便益を認めなかった[30]。さらには、コロンビアのカリで行われた追加の研究では、以下に述べるように、治療薬とプラセボ服用の混同がみられた。

 IVMの有効性を裏付けるRCTの証拠に対しては、研究の母集団が小さすぎるという反論もあった[31]。しかし、臨床試験デザインでは、効果の高い薬剤は、少ないサンプルサイズで統計的に有意な結果を得ることができ、効果の低い薬剤にはより大きな試験集団が必要となることがよく知られている[32]。例えば、上述したように、COVID-19の最大用量のIVM治療試験では、死亡率を追跡した結果、治療群と対照群の200人ずつの死亡数は2対24であり[22]、z検定のp値は0.0006であった[33]。しかし例えば、相対リスク(RR)が75%程度の薬剤の場合には、治療群と対照群で同じ統計的有意性を得るためには、それぞれ3,800人以上の被験者が必要となる[33]。大規模な研究集団は新薬の副作用(adverse effects, AE)をスクリーニングするのに有用であるが、IVMは1987年以来、世界中で37億回投与されて安全に使用されており[2,3],標準的な単回投与量である200 μg/kgよりもはるかに多い量でも許容されている[34,35].COVID-19治療のRCTでは1,500 μg/kg[36]や1,600 μg/kg[22]、3,000 μg/kg[37]の累積投与量で4日または5日にわたって使用されているが、軽度ないしは一過性の副作用がわずかに認められるのみである。

COVID-19の高用量IVM治療の安全性を確立したRCTの中には、コロンビアのカリで実施されたものがあるが、これは中央値37歳の概して軽度のCOVID-19症例を対象とし、対照群には1名の死亡者を含む[36]。この研究では、IVM 治療による統計学的に有意な症状の改善は認められなかったが、顕著な異変が報告された。すなわち、IVM 治療の高用量に特徴的な副作用が、IVM 治療群とプラセボ群でほぼ同じ割合で発生していたのである。その内容は、一過性の目のかすみ(11.3%、11.6%)や、めまい(35.6%、34.3%)などであった。これらの対照群でのIVM使用の兆候が見られたのは、試験期間中に試験地域でIVMの店頭販売が急増したためである(原典:補足表1)。さらに、38名の患者に対してIVMがプラセボと間違えて投与されていたことが、主任薬剤師が1カ月後に発見したことによって、本試験の治療群と対照群の境界に疑問が生じた(原典試験、p.3、試験プロトコル補足資料、p.43)。さらに、64人の対照患者にプラセボとしてブドウ糖生理食塩水を使用したことで盲検化が行われたが(IVMは独特の苦味がある)、代わりのプラセボ溶液の組成は特定されていなかった[38]

以上のようなCOVID-19治療におけるIVMの有効性の知見を裏付けるものとして、予防試験においてSARS-CoV-2に対する活性が示唆された。3件のRCTでは、COVID-19患者に曝露された100人[22]、117人[39]、203人[40]コホートにIVMを投与して予防効果を評価している。これらの研究では、いずれも週に少なくとも150 μg/kgの量のIVMを使用しており、COVID-19の発症を統計的に有意に減少させたことが報告されており、それぞれのRRは対照と比較して20%、26%、13%で、中等症および重症の発症はより大きく減少した。COVID-19の予防に関する別のRCTでは、42日間の観察期間の第1日目に、617人の被験者に12 mg(約150 μg/kg)のIVMを1回だけ投与し、他の3つの予防的投薬群では、その期間中に毎日投与を行った[41]。低容量のIVMの1回だけ投与した群は、4つの投薬群の中で最も優れた結果をもたらした。対照群と比べて、COVID-19の症状と急性呼吸器症状の両方で50%近くの、統計学的に有意な減少を示したのである。  

 

ペルーではIVM使用時に過剰死亡が14分の1に減少し、IVM使用終了後は13倍に増加した

 25カ国におけるCOVID-19のIVM治療の臨床経験は、RCTをはるかに超えるものであり、結果は要約されているが、追跡が不完全で対照群がないため、ほとんどが評価対象外とされてきた。ペルーにおける、国家的に認可された治療の記録は、注目すべき例外である[42]。ペルーの10の州で、多くの人々を対象とするCOVID-19のIVM治療がなされた。これは軍隊主導の大規模な取り組みであるMega-Operacion TaytaMOT)によって行われ、各州で異なる日付で開始された。これらのMOT実施州では過剰死亡者数がピーク時から30日間で平均74%と急激に減少したが、これはMOT開始日と強く関係している(図1B)。ペルーの14州では、現地でIVMの配布が行われたため、ピーク時から30日間の過剰死亡数の減少率は平均53%であったが、パンデミックの第一波の際に、抑制的政策によってIVMの配布がほとんど行われなかったリマでは、30日間の過剰死亡数の減少率は25%であった。     

州別の過剰死亡数の減少(絶対値)は、図1Cに示すように、IVM配布の程度(最大:MOT実施州、中程度:地域配布、最小:リマ)と相関している(ケンドールの順位相関係数 τb = 0.524、p<0.002)。全国的には、2020年12月1日までの4ヶ月間で過剰死亡数が14分の1に減少した。しかし、11月17日に就任したペルーの新大統領の下で、IVM治療を制限する政策が実施された後、12月1日から2021年2月1日までの2カ月間で死亡数が13倍に増加した(図1A)。ロックダウンや集団免疫などの潜在的な交絡因子は、Google社のコミュニティ移動データや、血清反応率、人口密度、SARS-CoV-2遺伝子変異の地理的分布などを用いて除外し、図1A以外の解析対象を年齢60歳以上に限定した。2020年7月以降、パンデミックの症例死亡数を大幅に過少報告していたことをペルー保健省が把握しているため、すべての分析においてCOVID-19の症例死亡数ではなく,過剰死亡数を用いた[43].この違いはそれ以降も、国民健康データベースにおいて、COVID-19症例死亡数と全自然死の数値に一貫して現れている[42]

 

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図1  A)ペルーの全国民人口における、全原因による過剰死亡(全年齢)。これらは8月1日から2020年12月1日まで14分の1に減少し、IVMの使用が制限された後は2月1日までに13倍に増加した。AとBに関して、縦軸の値(y値)は7日間の移動平均値であり、BとCは60歳以上である。データはPeru’s National Death Information System (SINADEF)によるもの。

B)軍主導の大量IVM配布プログラム「MOT作戦」が実施されたほぼ全ての州で過剰死亡者数が減少したが、Pascoは3日間しかプログラムが実施されておらず、例外である。●MOT開始日の死亡者数、▲ピーク時の死亡者数、■ピーク時から30日後の死亡者数。Juninでは、MOT開始の13日前に地元のルートでIVMを配布した。

C)25州におけるIVM配布の程度別に見た、ピーク死亡時から30日後の過剰死亡数の減少率: MOTを最大限に実施した州(+)は平均74%減、地域配布を行った州(○)は平均53%減、最小減実施地域のLima(×)は25%減であった。これらの州別減少数の絶対値は、IVM配布の程度と相関している(Kendall τb = 0.524, p<0.002(Spearman rho = 0.619, p<0.001)となった。

これらのデータはすべて、一般公開されているペルーの国家データベースから得たものであり、関連する圧縮データセットはDryadデータリポジトリから入手可能である[42]

 

IVMを用いた併用療法とその他の進行中の研究

 IVMと補助薬を用いた併用療法は、これまでに実施されたRCTにおいて、COVID-19に対する有効性が示されている[24,44]。IVMとドキシサイクリンと亜鉛を用いて、治療前の spO2〔訳注:パルスオキシメーターで測定する経皮的動脈血酸素飽和度〕 が 90%以下の重症・重篤な症例を治療し、24時間後のspO2のた結果は、Sabine Hazan医学博士とともに、本論文の共著者ボロディ(TJB)が報告するであろう。IVM投与後1~2日でCOVID-19の重篤な症状が顕著に改善することが、本論文の筆頭著者(サンティン、ADS)が治療した数名の患者で確認されている。また、COVID-19に対するIVMの、このような短期的な臨床効果を客観的に追跡する研究が進行中である。IVMとフルボキサミンなどの薬剤を併用した他の併用療法は、医学的研究によって有意な便益が示されているが[45]、これについては米国のFLCCCアライアンス(https://covid19criticalcare.com)が情報提供を行っている。

併用療法の治癒可能性は、消化性潰瘍に関する30年前の医学的ブレイクスルーによって実証されていた。この病因としてのヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の発見は、2005年にノーベル医学賞を受賞した。1990年には、Thomas J. Borody博士が、ヘリコバクター・ピロリに対する併用療法の初の臨床試験を発表し、3つの再利用可能な薬剤(亜硝酸ビスマスと2つの抗生物質)からなる3剤併用療法で96%の治癒率を達成した[46]。1990年から2015年の間にオーストラリアでは、消化性潰瘍に対してこの3剤併用療法を適時に使用したことで、18,665人の死亡を防いだと推定される[47]。1990年代後半には、消化性潰瘍の緩和薬であるタガメットとザンタックの特許が切れ、3剤併用療法が世界の標準治療となった。

 

結論

 私たちは、COVID-19に対するIVM治療を、予防接種と相補的に世界中に拡大すべきことを、これまでのエビデンスが支持するものと考える。IVMの生物学的メカニズムとして示されている、SARS-CoV-2スパイクタンパク質との競合的結合は、レビューされているように、エピトープ特異的ではないものと考えられ、新興のウイルス変異株に対しても十分な効果が得られる可能性がある。IVMは1987年以来、37億回投与されており、標準的な投与量よりもはるかに多い投与量でも忍容性が高く[34,35]、前述のCOVID-19の高用量治療に関する3つの研究でも重篤な症状は見られなかった[34,36,37]。世界的なCOVID-19の緊急事態において、変異ウイルス株やワクチン接種の拒否、そして数ヶ月で免疫力が低下しうることが新たな課題となっているが、IVMはこのパンデミックに対して展開される治療法の、効果的な構成要素となり得るものである。

 

資金提供:この論文に関する資金供与はありません。

倫理的承認及び参加同意:この研究はレビューであり倫理的承認は必要ありません。

利害相反:著者のうちTJBは、IVMを含むCOVID-19の費用対効果の高い治療法の商業化を目指しているTopelia Therapeutics(カリフォルニア州ベンチュラ)の代表者の一人です。他のすべての著者は利益相反を報告していません。

 

参考文献

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※PDF版はこちら

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【動画】戦後の経済成長を支えた財政投融資


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戦後の経済成長を支えた財政投融資に注目する動画を作りました。戦後日本の財政はながらく健全財政(一般会計の国債発行ゼロ)だったのに、どうやって戦後の産業復興やインフラ建設などの資金を、政府がまかなうことができたのでしょうか? 広い意味での政府が、いっさいの負債(貨幣発行や借り入れ)によらずに資金をまかなったと考えるのは間違いです。

 

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終戦直後のインフレ期には、復興金融公庫の資金調達のための債券(復金債)は、大部分が日銀によって引き受けられていました。そして、財政投融資の制度が確立してくると、その財源の多くは、経済成長の成果を人々が郵便貯金などの形で蓄え、その巨額の資金を政府が運用していたのです。

 

さいごに、石橋湛山蔵相が、戦後インフレまっただ中の1946年4月に、次のような素晴らしい演説をしていたことを、紹介しておきます。

 

「インフレは、通貨収縮、すなわちデフレ政策によって処理しうるものでは断じてない。饑饉物価は、物の生産と出廻りによってのみ救治しうる。...財政の第一要義は...生産活動を再開せしめることにある。たとえ財政おいて赤字を生じ、ために通貨の増発を来すとも、何ら差し支えがない。...かえってこれこそ真の意味の健全財政であると信ずる」

 

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動画で使われているスライドは、こちらからDLして頂けます。
使用される場合は、出典を明記して下さい。

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【動画】シンポジウム 「積極財政をどのように考えるか―MMTに関係する報告と討論―」

公益財団法人政治経済研究所のシンポジウムでお話させて頂きました。当日の動画が公開されていますので、ぜひご覧下さい。

 

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公益財団法人政治経済研究所の主催シンポジウム
「積極財政をどのように考えるか―MMTに関係する報告と討論―」

 

報告者 朴勝俊(関西学院大学教授)
論 題 「貨幣の本質と財政破綻論」YouTubeで動画を公開中)

討論者 岡本英男(東京経済大学教授、学長)
    建部正義(中央大学名誉教授)
司会者 齊藤壽彦(政治経済研究所理事、千葉商科大学名誉教授)

 

 新型コロナウィルスの感染拡⼤とその対応策によって、我が国の経済は甚⼤な被害を受け、多くの⼈々が厳しい⽣活状況へと追い込まれました。このような状況のなかで、国による積極的な財政⽀援が求められていますが、⼀⽅で、⽇本の財政は危機的な状態であり、無駄な歳出の削減や消費税増税などによって財政健全化を図る必要があるということも⼀般に広く認識されています。

 しかし、本研究会の報告者である朴勝俊⽒は、MMT(現代貨幣理論)を援⽤することで、⽇本の財政を新たな観点から捉え直し、積極財政の可能性について分析し、提⾔されています。

 本研究会では、朴勝俊先⽣とともに、⽇本の財政について再検討します。

 

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 公益財団法人政治経済研究所のHPはこちら

www.seikeiken.or.jp

 

【翻訳】緊縮財政とナチスの台頭

欧米諸国の多くは2007-2008 年の金融危機からの債務問題に対応するために、ディープな緊縮財政を追求してきたが、COVID-19 の景気刺激策の結果、再び緊縮財政を行う可能性がある。本コラムでは、1930年代初頭に緊縮財政がいかに社会的苦痛を悪化させ、政治的不安を助長し、ドイツでナチス党の台頭への道を開いたかをレビューしている。著者らは、ワイマール政府が社会的苦痛に対する首尾一貫した対応をしなかったことが不景気を悪化させ、ドイツの有権者の過激化と分極化に寄与したと論じている。

 

2020年8月16日

グレゴリ・ガロフレ・ヴィーラ、クリストファー・マイスナー、マーティン・マッキー、デヴィッド・スタックラー 著

2021年1月4日

朴勝俊 翻訳

原典:VoxEU.org
https://voxeu.org/article/fiscal-austerity-and-rise-nazis

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緊縮財政とナチスの台頭

 

何がヒトラーを権力の座へと押し上げたのかについては、多くの文書が書かれている。経済的要因(世界恐慌から高い失業率まで)と社会文化的条件(ヴェルサイユ条約での抑圧的措置に起因する)が重要な役割を果たしたことは異論がないが、なぜナチス党がかくも急速に台頭したのかについては、1世紀近く経った今でも、論争の的である(Adena et al. 2015, Doerr et al. 2018, Eichengreen 2018, Ferguson and Voth 2008, Satyanath et al. 2017, Voigtländer and Voth 2012, Voth 2020).

 

我々の最近の研究は、緊縮財政が1930年代初頭の選挙におけるナチスの成功にいかに寄与したかを示した(Galofré-Vilà et al. 2020)。1930年から1933年までの間、いずれのドイツ総選挙においても、大幅な歳出カットと増税が行われた地方自治体では、ナチス党への投票率が高かった。

 

当時の財政政策は、議会を大きく迂回して一連の非常事態令によって実施された。しかもそれらは甚大な苦難をもたらすことを承知の上で布告された。ハインリッヒ・ブリューニング首相は、国際メディアがドイツの苦境を報道することで、経済的に窮地に陥ったドイツの債務や賠償義務を国際社会が緩和することを期待していた。しかし,ヒトラーは1931年6月に「この非常事態令はわが党の勝利を助け,それゆえに現在の制度の幻想に終止符を打つだろう」と予言した[1]。

 

緊縮財政が選挙結果に与えた影響

 

1930年から1932年にかけて、大恐慌の真っ只中においてブリューニングは、歳出を削減し、増税し、社会的セーフティネットを撤回した。実質歳出は8%削減され、中央政府の実質歳出は14%削減された。救済金と失業給付は制限され、インフラ支出は削減され、公務員の給与はカットされた。1928年にはすでに政府支出がGDPの約30%を占めていたため、その影響は多くの点で大きかった。税率も引き上げられ、負担率で見れば低所得者層に最も厳しい打撃を与えた。ますます多くのドイツ国民が、この危急の時に、経済的な不安定と疎外に直面したのだ。恐慌に対抗するための拡張的な財政政策は実施されず、ドイツ国民はますます排除的で疲弊した救済制度に頼らざるを得なくなった。

 

これらの緊縮策は、選挙民の過激化に寄与したのだろうか。また、もしそうだとしたら、これは「圧迫された」中産階級の権利剥奪によって起こったのだろうか?我々は、1930年から1933年までの4回の選挙を対象に、100以上の都市と1000以上の小選挙区に関するドイツの公式統計データを用いて、これらの仮説を検証する。全体として、緊縮財政の影響を受けた地域ほど、ナチス党への投票率が相対的に高いことがわかった。都市と選挙に関する固定効果を含め、ナチスの成功に関係する他の説明変数を制御したモデルは、緊縮財政のディープさが1標準偏差ぶん増加するごとに、従属変数であるナチスの得票率が2~5%ポイント(1標準偏差の4分の1~半分増加)増加することを示した。また、選挙におけるナチスの成功と増税との間に正の相関があることも示された。これらの結果は、操作変数法や境界ペア政策不連続デザイン(border-pair policy discontinuity design)など、ひととおり定式化を変えても頑健であった。

 

我々はまた、別の説明についても調査した。その中で最も重要なものは、もちろん「個人志向の経済投票(pocketbook-voting)」である。ナチスの台頭は単に景気後退によるものだ、というものである。重要なのは、データ内の各政党の得票数を区別できることである。以下に示すように、緊縮財政による政治的支持の変化のほとんどは、中央党(ブリューニングの政党)からナチス党への鞍替えであった。さらに、ドイツの政治スペクトルにおける(極右イデオロギーを持つもう一つの政党であるドイツ国民人民党を含む)その他の主要政党は、緊縮財政に応じて票を増やすということはなかった。経済的に最悪の状態にある失業者は、ナチスではなく共産主義者に目を向けた。このことは、彼らより少し上の階層が、増税と歳出削減で失うものがより大きく、自分たちの支持政党が経済的救済を提供しなかったときに、ナチスを支持したという説明と合致する。

 

緊縮財政と回避可能死亡率の悪化

 

我々はまた、歳出の種類ごとに、ナチスの得票増に緊縮財政が与えた影響を研究した。これにより、選挙結果に対する緊縮財政の影響のほとんどは、緊縮財政によって深刻な影響を受けた2つの支出項目、すなわち医療と住宅に関する支出削減によって引き起こされたことが分かった。こうした社会的支出の削減は、多くのドイツ国民の苦しみを悪化させた。事実我々は、比較的厳しい緊縮財政が行われた地域ではより大きな苦しみ(死亡率で測定)が見られ、死亡率が高いこれらの地域の有権者ナチス党に投票する可能性がより高いことを発見した。これは当時の識者たちの見解と一致している。例えば、1930年10月の秋には、ハルマール・シャハト(ドイツ帝国銀行元総裁)がアメリカのマスコミのインタビューに応じて、「もしドイツ国民が飢餓に陥るならば、もっと多くのヒトラーが出てくるだろう」と警告した(The New York Times, 3 October 1930)。

 

結論

 

ワイマール・ドイツの終焉とナチスファシズムの台頭は、あまりにも過酷な緊縮財政が、社会不安と意図せざる政治的結果を引き起こしかねないことを示した。景気後退を含む他の説明変数をコントロールした後でも、緊縮財政が重要な役割を果たしたことは明らかである。我々の知見は、緊縮財政が人々の現実の苦しみをもたらし、不平等と不公平を悪化させたという仮説と一致している。人々が政府の助けを最も必要としていた時期に、政府は彼らを失望させた。その結果、人々は急進的ポピュリスト政党の誘惑の声に引き寄せられたのである。

 

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Endnotes

1 ブリューニングが4つめの(そして最後の)緊急事態令を布告してから12日後、ヒトラーは「最後の緊急事態令の大いなる幻想」と題された大衆向けパンフレットを発行した。これは、人々の鬱憤を動員して権力掌握を実現するための試みであった(フルテキストは、Hitler, Hitler an Brüning - Broschürenreihe der Reichspropaganda-Leitung der NSDAP, Heft 5, Munich: Franz Eher, 1931).

 

著作権については以下のURL参照

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高橋是清講談(昭和編)ー昭和金融恐慌から2.26事件までー

昭和財政における高橋是清(たかはしこれきよ)の業績を皆さんに知っていただくため、講談師の玉田玉秀斎師匠に『高橋是清講談(昭和編)』を続き読みしていただきました。

 

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※ 玉田玉秀斎オフィシャルページ

 http://ahs-web.com/tamadagyokusyusai/index.html

 

 脚本は朴勝俊によるものです。脚色もありますが、基本的には高橋是清の自伝や、彼に関する伝記、小説などを熟読して、できるかぎり史実に基づいて描いたものです。

 

 是清は、江戸時代末期に生を受け、少年時代から米国に留学し(奴隷生活も経験し)、生きた英語を身につけ、小学校もまともに出ていないのに国立大学の英語教師となりました。そして役人となり、芸者のお手伝いにもなり、儲け話に騙され、また役人に戻って外遊し、日露戦争の戦費を調達し、最後は総理大臣や財務大臣を歴任した、不世出の政治家です。

 昭和期の高橋是清蔵相の活躍は、昭和金融恐慌の克服と、積極財政によって日本経済を世界大不況からもっとも早く脱却させたことで、頂点を極めます。

 底の浅い財政破綻論者は、日銀の国債引き受けを用いた積極財政を、その後の日本の軍国化や大戦を引き起こした禁じ手だった、などと批判しますが、この講談を聞いていただくと、それが誤りであることが理解できるでしょう。世界不況期の金本位制復帰と緊縮財政が、日本の運命を誤らせました。蔵相に返り咲き、金本位制を停止し、大不況からの脱却を果たした高橋は、ただちに健全財政主義に転換し、自らの命を賭けて軍部の予算要求に抵抗するのです。高橋の運命やいかに!それは次の講釈で。

 

 

第一幕「昭和金融恐慌


 

 

第二幕「井上準之助の緊縮財政」


 

 

第三幕「高橋財政(前半)」


 

 

第四幕「井上対高橋 貴族院aでの大論争」


 

 

第五幕「高橋財政(後半)」


 

 

第六幕「藤井の戦死」



 

第七幕「是清の最期」


高橋是清講談第七幕 『是清の最期』

 

 

<参考文献>

幸田真音(2017)『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債【上下合本版】』角川e文庫

鈴木隆(2012)『高橋是清井上準之助 インフレか、デフレか』文春新書

スメサースト、リチャード(2010)『高橋是清 日本のケインズ―その生涯と思想』東洋経済新報社

高橋是清(1976)『高橋是清自伝(上)』上塚司編、中公文庫

高橋是清(1976)『高橋是清自伝(下)』上塚司編、中公文庫

高橋是清(2010)『随想録』中公クラシックス

高橋是清(2013)『経済論』上塚司編、中公クラシックス

高橋是清井上準之助(1932)『国民に問ふ―金輸出再禁止是非―』明治図書出版協会編輯部

松本崇(2012)『恐慌に立ち向かった男 高橋是清』中公文庫