朴勝俊 Park SeungJoonのブログ

反緊縮経済・環境経済・政策に関する雑文 

実質実効為替レートは高いほうがよいのか?

2022年1月26日 朴勝俊著

 

■ はじめに

 日本経済新聞(日経)が、「円の実力低下、50年前並み、弱る購買力、輸入に逆風 消費者、負担感増す」というタイトルの記事を出しました(2022年1月21日)。記事は冒頭部分で以下のように述べています。

 

円の総合的な実力が50年ぶりの低水準に迫ってきた。国際決済銀行(BIS)が20日発表した2021年12月の実質実効為替レート(10年=100)は68.07と1972年の水準に近づいた。日銀は円安は経済成長率を押し上げると主張するが、同レートの低下は物価低迷と名目上の円安が相まって円の対外的な購買力が下がっていることを示す。消費者の負担感も増すことになる。

 

 興味深いのは、日経が実質実効為替レートの定価について、「円の対外的な購買力が下がっている」と否定的な評価を下しているのに対して、日銀は「経済成長率を押し上げる」と肯定的にとらえていることです。どちらの見方が妥当なのでしょうか? そして難しいのは、「実質実効為替レート」の正体です。「為替レート」だけでも難しいのに、「実質為替レートだけでも難しいのに、「実質実効為替レート」とはいったい何なのでしょうか?

 結論から述べましょう。正しいのは日銀です。私たちには「消費者・海外旅行者」としての側面と、「生産者・労働者」としての側面があります。そして一般論として、消費者・海外旅行者としての私たちにとっては円高が有利ですが、生産者・労働者としての私たちにとっては、円安の方が有利です。円安によって、実質GDPが上がりやすくなり、産業空洞化が起こりにくくなり、雇用が増えやすくなり、賃金が上がりやすくなります。他方で、実質実効為替レートの高さは「円の実力」などではなく、日本で作られる製品の「国際的な価格競争力の弱さ」を示す指標ととらえるべきです。

 

■ 円安のデメリットとメリット

 日経がいうように、現在の円安が好ましくないものだとしたら、政府と日本銀行は、人為的にむりやり円高にする政策を実施することは、やろうと思えばできます。政策金利をむりやり引き上げれば、金利を稼ごうという金融機関や資産家が、巨額の資金を日本に移します(日本円の需要が増えて円高になります)。そのようなことをすべきでしょうか?

「消費者・海外旅行者としての私たち」にとって、円安のデメリットは明らかです。海外からの輸入品(外国車、ワイン、エネルギー資源)の価格が高くなりますし、海外旅行に行ったときには、レストランでの食事が高価になります。多くの人々が、円安を嫌がるのは当然のことです。

 でも、国内で働く「生産者・労働者としての私たち」にとっては、円安の方が有利になります。むしろ円安の方が「安全だ」といった方がよいでしょう。円安になった方が、実質GDPが高くなり、雇用が増え、賃金が上がりやすくなると考えられます。いや、雇用が増えなくても、賃金が上がらなくても、解雇や賃下げの危険性が低下するのです。そして、私たちの多くは、消費者であるまえに生産者・労働者として、収入を得なければならないことを、忘れてはなりません。

これは、標準的なマクロ計量モデルの試算をみれば理解できるでしょう。内閣府の「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)を参照しましょう[1]。シミュレーション分析によれば、基準ケースと比べて10%だけ円安にするにすると、実質GDPは上昇し、失業率は若干下がり、時間当たり賃金が上がるということです。他の例を網羅することはここではできませんが、「普通につくられたモデル」なら同様の結果になると思われます。その理由は、簡単に言えば日本製品が割安になり、国際的な価格競争力が強くなるからです。

 

図表1: 内閣府の短期日本経済マクロ計量モデルによる円安効果の試算

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出典: 丸山ほか(2018)

 

 逆にいえば、円高によって国内生産者の価格競争力が弱くなります。外国製品の安さに太刀打ちできなくなるのです。ひどい円高が続くと、日本国内の生産がやってゆけなくなり、工場ごと海外に移転するケースが増加します(これが産業空洞化です)。その影響で解雇や賃下げが進み、不況やデフレにつながるのです。実際にそれは、2010年頃に起こったことです。日本経済研究センターによれば「円高で輸出採算が悪化すれば、企業は海外に生産をシフトする傾向が強まる。経済産業省(2019)によると、製造業の現地法人生産比率は国内全法人ベースで08年に17%だったが、徐々に高まって15年には25%を初めてこえた。輸送機械、はん用機械などの加工型で現地生産比率が高い」ということです[2]。このように空洞化が進んだので、円安のメリットは弱くなった、という発言も聞かれます(この記事も、そういう意味あいがあります)。中にはメリットは無くなったと極論する人もいます。しかし、25%超が現地生産(海外での生産)になったということは、まだ7割以上が国内生産だということですから、円安のメリットはまだまだあるのです。

 

 

■ なぜ円安が生産者・労働者にとって有利なのか: 名目為替レートで考える

 ここからは、できるだけ単純な想定のもとで、円安の方が生産者・労働者にとって有利であることが、直感的に、本質的に理解できるよう説明を進めます。

世界には日本と米国の2国があり、両国とも自動車だけを生産しているものとします。両国の自動車は全くおなじスペック(同種同質)とします。このような想定をするのは、国の数が増えたり、財の数が増えたり、品質の違いを考慮すると話がたちまち複雑になるためです。同じようなものを、お互いに貿易しあうことを「水平貿易」といいます。このとき、国際的な「裁定取引」が働きます。単純化のために、さらに輸送費や取引費用もゼロと考えます。

 

  •  平価が成立する名目為替レート

 日米で全く同種同質同サイズの自動車が、日本では1台100万円、米国では1台1万ドルで売っているとしましょう。この時、名目為替レートが1ドル=100円の時だけ、日米の両市場で、価格が等しくなります(名目為替レートとは1ドル100円といったおなじみの為替レートです。数字が高くなると円安です)。

 

[日本市場] 日本車[100万円/台]=米国車[100万円/台]

[米国市場] 日本車[1万ドル/台]=米国車[1万ドル/台]

 

このとき、貿易商人にとっては、わざわざそれ以上、自動車をどちらかの国で安く買って、相手国に運んで売って、利ざやをかせぐことはできなくなります。このように価格が等しくなることを「平価が成立する」と言います

 

  •  円安になったら?

 これが、もし1ドル=200円の円安になったらどうなるでしょうか。1万ドルの米国車は日本では200万円に、100万円の日本車は米国では5000ドルになりますね。

 

[日本市場] 日本車[100万円/台]<米国車[200万円/台]

[米国市場] 日本車[5000ドル/台]<米国車[1万ドル/台]

 

どちらの市場でも日本車の方が安くなります。このとき、商人は、日本車を調達して米国で売ると、利ざやを稼ぐことができます。ですから、日本車の輸出が増えるのです。このことは、為替レートが是正されて、再び日本車と米国車の価格が両市場で一致するまで続きます。

 

もし、1ドル=50円の円高になったらどうでしょう。このとき1万ドルの米国車は日本市場で50万円に、100万円の日本車は米国市場で2万ドルになります。

 

[日本市場] 日本車[100万円/台]>米国車[50万円/台]

[米国市場] 日本車[2万ドル/台]>米国車[1万ドル/台]

 

どちらの市場でも、日本車の方が高くなり、売れにくくなることが分かります。このとき貿易商人は、米国車を調達して日本で売ると、利ざやを稼ぐことができるようになります。つまり円安の結果として日本では米国車の輸入が増えて、貿易収支は赤字に向かいます。このことは、両国の自動車価格そのものが替わらない場合には、名目為替レートが是正されて、再び日本車と米国車の価格が両市場で一致するまで続きます。

 

同様のことは、他の全ての「貿易可能な商品(貿易財)」について言えます。貿易財とは、国境を越えて持ち運びができるモノだということです。輸出品か、主に国内で消費されている商品かは、関係ありません。円安になっても輸出業者しか儲からない、というのは誤りです。主に国内向けのモノを生産している業者にとっても、円安は、安い外国製品の輸入を防いでくれるので、メリットがあるのです。

ちなみに、貿易不能な商品(非貿易財)とは、料理店や床屋などが提供する、基本的にその場で消費するサービスのことです。誤解されがちですが、マクドナルドのビッグマックは貿易可能な商品ではありません。

 

ここまでをまとめますと、

 

・平価に相当する適正為替レートだと、輸出入が落ち着く 

・円安だと、日本製品が輸出されて、貿易黒字につながる

円高だと、外国製品が輸入される、貿易赤字につながる

 

ということになります。ミクロ経済学の基礎の基礎である「裁定取引」を考えただけでも、ここまで理解できますこれを踏まえて考えれば、円安になるほうが、日本製品の価格競争力が強くなり、売上が増えて、生産者・労働者にとっては有利になることが分かります。つまり実質GDPが増えて、産業の空洞化が防げて、雇用が増えやすくなり、賃金が上がりやすくなるのです。

 

 

■ 実質為替レートは「価格競争力の弱さ」を意味する

1ドル100円といった、おなじみの為替レートを名目為替レートと言うのでした(数字が高くなると円安です)。これに対して、実質為替レートは、両国の商品の価格の違いが勘案された為替レートということです。これはどういうことでしょうか? 前節と同じ想定で、平価が成立していたときを基準に考えましょう。

e[円/ドル]をおなじみの名目為替レート(数字が高くなると円安)としますと、

 

100[万円/台]=e[円/ドル]×1[万ドル/台]

 

が成立するときが、たまたま平価が成立するときです。そのときのeは100でなければなりません。右辺の単位を約分してゆくと、左辺の単位に一致することを確認してください。この式を少し変形させて、実質為替レートは次のように定義されます。

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この右辺の単位に注目してください、[/ドル]×[万ドル/台]÷[万円/]と、単位どうしを約分してやると、全部消えてしまうことが分かります。したがって、ここでいう実質為替レートは単位のない、1を基準とする数値となります。なお、ここでは大小関係の意味で、名目為替レート(e)と同じ見方ができるように、実質為替レートの数値が高くなるほど、円安になるようにしています。この数字は、何を意味しているのでしょうか? 分子は米国車の価格を円換算したものであり、分母は日本車の価格です。ですから、実質為替レートは、米国車と日本車の相対価格ということになります。これは、1台の米国車が日本車よりも何倍高いのか、ということです。実質為替レートを考える時には、もはや、価格そのものや、名目為替レートそのものを無視して、モノ同士をみて、どちらが高いのかを考えるものだということです。

 

  •  平価が成立するとき実質為替レートはどうなるか

平価が成立するとき、e=100ですから、

 

実質為替レート=100[円/ドル]×1[万ドル/台]÷100[万円/台]

 

となります。したがって実質為替レートは1となります。米国車と日本車の値段が同じだということです。

 

  •  名目為替レートが円安になったとき実質為替レートはどうなるか

円安になって、e=200になったら、

 

実質為替レート=200[円/ドル]×1[万ドル/台]÷100[万円/台]

 

となります。したがって実質為替レートは2となります。米国車が日本車の2倍高くなるということです。これは日本車の方に2倍の価格競争力(安さを武器にする強み)があるということです。これが「実質的な円安」の意味するところです。日本市場でも米国市場でも、日本車の方が安くなって、売れやすくなるのです。

 

  •  名目為替レートが円高になったとき実質為替レートはどうなるか

円高になって、e=50になったら、

 

実質為替レート=50[円/ドル]×1[万ドル/台]÷100[万円/台]

 

となります。したがって実質為替レートは0.5になります。これは、日本車が米国車の2倍高くなるということです。これが「実質的な円高」の意味するところです。このことは、日本車の価格競争力が半分まで悪化したことを意味します。日本市場でも米国市場でも、日本車が高くなって、売れにくくなるのです。

 

  •  自動車の価格が変わったら実質為替レートはどうなるか

ここまでは、名目為替レートeの変化だけで説明しましたが、それぞれの国内の自動車価格の上昇が起こった場合にも、実質為替レートが変化します。ここでは、話を分かりやすくするために、例えば、名目為替レート(e)は100のままで、日本車の値段だけが2倍になった場合を考えましょう。1台200万円になった場合のことです。

 

実質為替レート=100[円/ドル]×1[万ドル/台]÷200[万円/台]

 

ゆえに、実質為替レートは0.5となります。これは、実質的な円高を意味します。これは日米どちらの市場でも、日本車1台の価格が米国車1台の価格の2倍になったことを意味します。このことは、日本車の価格競争力が半分まで悪化して、売れにくくなったことを意味します。平価は実質為替レートが1の場合なのですから、平価よりも実質為替レートが円高になると、米国車が日本に押し寄せて、貿易赤字が増えます。貿易赤字は円安につながります。価格を固定して単純計算すれば、名目為替レート(e)が200[円/ドル]まで円安になれば、実質為替レートが1になって、平価が回復されることになります。

 

実質為替レート=200[円/ドル]×1[万ドル/台]÷200[万円/台]=1

 

  •  対外切り下げと対内切り下げ

このように、円が下落できれば(対外切り下げexternal devaluationできれば)、国内産業は値下げや賃下げの努力をさほどしなくても、国際競争力を回復できます。GDPも雇用も賃金も(自国通貨でみるかぎり)高く保つことができます。これがもし固定相場になりますと、無理して賃下げ・値下げをしないといけなくなります。

たとえば、ギリシャなどのユーロ加盟国は、ドイツなどより競争力が低いのに、強い通貨を使うことになってしまいました。実質為替レートが上がり、国内産業の価格競争力が低下しました(そして貿易赤字が増え、対外負債が増えました)。しかし、ユーロに加盟してしまったために、通貨を切り下げることはできません。そのため、経済危機の後には、失業を増やして、賃金を下げて、デフレを起こして、対内切り下げを行うことで、価格競争力を回復させることを強いられたのです[3]。産業の空洞化が一層すすんだことは言うまでもありません。他方、金融危機に見舞われた小国アイスランドは、通貨がいっとき暴落したことによって、漁業や観光業の価格競争力が回復し、その後は経済も回復しました。

 

  •  実質為替レートは「円の実力」ではない

ここまで読んでいただいて、実質為替レートは「日本製品と外国製品の価格比」にすぎないことが分かっていただけたでしょうか。価格比(相対価格)に過ぎないものが、「円の実力」という意味を持つことはありません。このことは極端な例で考えると分かりやすいでしょう。平価の状態から、いわゆるハイパーインフレが進んで日本車の価格が1万倍に上がり、名目為替レートの値が5000倍の50[万円/ドル]まで円安になったとします。米国車のドル価格はそのままとします。すると、

 

実質為替レート=50[万円/ドル]×1[万ドル/台]÷100[億円/台]=0.5

 

となり「実質的な円高」になります。日本車の方が、米国車より2倍高くなった計算になります。それでも、この状態を「円の実力」が高くなった、とは誰も言わないでしょう。

 

 

■ 実効為替レートは「為替レートの加重平均」である

名目為替レートと実質為替レートについて理解ができたら、実効為替レートの話に進みましょう。

実効為替レートとは、貿易相手国が複数ある場合に、全ての貿易相手国に対しての平均的な為替レートを計算したものです。貿易相手国の貿易シェアなどでウエイト付けをして、為替レートを「加重平均」したものです。これには、名目の実効為替レートと、実質の実効為替レートがあります。実効為替レートは、過去のある時点(基準時点)の値を100として、時間を通じての相対的な変化を見るモノです。そのため、より正確には実効為替レート指数(effective exchange rate index)と呼ぶべきものです。

実効為替レートは、それぞれの貿易相手国との2国間の為替レートについて、ある時点を「基準時点」として、その何倍になったかを計算して、それを加重平均して計算します。この場合の基準時点は、あくまでも恣意的なもので、その時点に種類の異なる様々な商品について平価が成立していたとか、貿易が均衡していたという意味ではありません。例えば、最近の実効為替レート指数は、2010年を100にしているのに対して、当時いわゆる「ビッグマック平価」がほぼ成立していました[4]。でもこれはあくまで偶然ですし、そもそもビッグマックは貿易財ではありません。

実効為替レートを考える場合には、おなじみの為替レート(eの数字が大きくなるほど円安)とは逆に、数値が下がった場合の方が円安に見えるように、数字を設定するのが慣わしです。少し難しくなりますが、以下に計算方法の考え方を示します。あくまで「実効」とはどういうことか、「加重平均」とはどういうことかが理解できるようにするためだけに、ここまでと同様の単純な想定で話を進めます。生産物は自動車だけという単純な想定のまま、貿易相手国の数だけを2つに増やして、計算方法の概略を説明します(実際の計算はもっと複雑ですが、本質は同じです[5])。

 

  •  名目実効為替レートの計算方法

日本の貿易相手国が欧州(ユーロを使う)と米国(ドルを使う)だけだったとして、貿易シェアが40%と60%(合わせて100%)だったとします。基準時点を2010年として、そのときの円対ユーロ為替レートが120[円/ユーロ]、円対ドル為替レートが100[円/ドル]だったとします。そして2022年現在、円対ユーロ為替レートが130[円/ユーロ]、円対ドル為替レートが115[円/ドル]だったとします(この数値例では、どちらの経済圏に対しても円安が進んだことになります)。このとき、次の式のような計算をします。

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この式の右辺の、最初の100は、基準年の値を100にするためのものです。括弧内は、基準年の数字が分子、現在の数字が分母です。これを0.4乗や0.6乗をしながら掛け算することで、シェアを考慮した加重平均をとることができています。結果は89となります。これは、2010年時点を100として、外国に対する平均的な為替レートが今では89まで下がったことを意味します。数字が下がったので、円が全ての貿易相手国に対して、名目為替レートが平均的に1割ほど割安になったということです。繰り返しますが、あくまで「2010年に比べて」割安になったということですので、本当は2010年に割高だったということなら、いまちょうど良くなっているのかもしれない、という解釈も可能です。

 

  •  実質実効為替レートの計算

 実質実効為替レートは、本稿の例でいえば、相対価格の変化となります。基準時点を2010年として、そのときの日本と欧州の、自動車でみた実質為替レートが2(欧州車が2倍高い)、日本と米国の実質為替レートが1(日本車と米国車の価格が等しい)だったとします。そして2022年現在では、対欧州実質為替レートが3(欧州車が3倍高い)、対米実質為替レートが2(米国車が2倍高い)になったとします(どちらの経済圏に対しても、円安が進み、日本の競争力が高まっています)。このとき、以下のような計算をします。右辺の最初の100は、基準年の値を100にするためのものです。括弧内は、基準年の数字が分子、現在の数字が分母です。これを0.4乗や0.6乗をしながら掛け算することで、シェアを考慮した加重平均をとることができています。

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これは、2010年時点を100として、外国車に対する日本車の相対価格が現在では56まで安くなり、国際競争力が2倍近くに高まったことを意味します。決して「円の実力が下がった」わけではありません

 

実際に公的機関などが計算する実質実効為替レートをもとめる際には、計算に使う2国間の実質為替レートを求めるさいの価格は、ひとつの財の価格ではなくて、たくさんの財の価格の加重平均をとった物価指数が使われます。これによって、計算式の見た目もずいぶん変わりますが、考え方は基本的には同じことです(ただし物価指数はふつう、各国の国産品の価格だけではなく輸入品の価格にも影響されるものですので、これらを用いた実質実効為替レートとは、じっさい何を計算しているものなのかが、若干あやふやになります)。目的によって、消費者者物価指数や企業物価指数、輸出物価指数など、異なる物価指数が使われ、この物価指数の選択によって結果が異なります[6]

 単純に言えば、以下のような計算が行われます。

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 ただし、I(アイ)を国名記号(IがEなら欧州、Aなら米国、Jなら日本)として、は2010年の日本とI国の名目為替レート[円/ユーロまたは円/ドル]、はI国の物価指数です。公的機関などが発表する実質実効為替レートは、実際にはもっとたくさんの貿易相手国を含めてもっと複雑な計算がなされますが、そのさいも本質は同じと言えます。つまり、この指数は「円の実力」ではなく、日本のモノやサービスが外国のモノやサービスに比べて、平均的にどれだけ高くなったのかを示すものなのです。

 

 

■ 水平貿易と垂直貿易

 ここまでは、同じモノを貿易しあう「水平貿易」を想定して、円安の方が価格競争力の面で有利になることを、明らかにしてきました。しかし実際には、円高になった方が有利になると考える人が多くいます。そのような人たちは、実質的な円高になることを「交易条件が改善した」と言って歓迎する場合が多いです。
 確かに、自分の国で作れないものを貿易しあう「垂直貿易」の場合には、一般に交易条件が良くなる方が自国にとって有利だと考えられます。日本の場合は、石油などのエネルギー資源を輸入せざるをえないので、国際原油価格の上昇が原因であれ、円安が原因であれ、これらの価格が値上がりすると不利になりますし、GDPにも悪影響が及びます。とはいえ、交易条件がよくなった場合でも、実際には日本は、モノを売って外貨を仕入れて、その外貨で石油を買わないといけないので、必ずしも円高が望ましいとは言い切れません。

また「霜降り和牛肉」や「夕張メロン」のように、他の国ではなかなかマネできないような、事実上日本でしか作れないような品物は、生産者にとって、高ければ高いほどよいかもしれません。しかしこれも長い目で見れば、高値で売れることが分かった外国の生産者が、頑張って同じようなものの生産を実現させる可能性があります。

 

 

■ 結論

一般に、消費者・海外旅行者としての私たちには円安よりも円高の方が有利ですが、生産者・労働者としての私たちにとっては円高よりも円安の方が有利です。そして、私たちの多くは、生産者・労働者として収入を得て、初めて消費ができますので、総じて円安の方が有利と考えられます。

実質実効為替レートは「円の実力」を示す指標ではなく、本質的にみれば、日本製品の価格競争力の弱さを示す指標です。これが平価に相当するときには、どの国の市場でも、日本製品と外国製品の価格がだいたい同じになって、貿易収支がある水準で安定すると考えます。それよりも、実質的に円高になると、日本製品がどの国の市場でも価格競争力を失うことになり、輸出が減って輸入が増え、貿易赤字が増えると考えられます。ですから、いまが円安であることを不安視して、金融引き締めで円高誘導するような政策をとれば、実質GDPは低下し、空洞化が進み、失業が増え、賃金が下がる恐れがあります。

 それでも、円安によって一時的に物価が上がり、それが生活の負担になる人がいることは事実です。特に現在は、円安と同時に国際エネルギー価格が上昇している局面のようです。それに対しては、円高誘導するよりも、政府がおカネを作って、消費税減税や一律給付金の支給などを行って、収入のほうを底上げしてあげるほうが正しい政策だと言えるでしょう。

 

[1] 丸山ほか(2018)「短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)の構造と乗数分析」ESRI Research Note, No. 41. Sep. 2018.

[2] 小野寺敬ほか(2019)「円安メリット薄れる国内産業 -原発停止や海外現地生産が背景に-」JCERニュースコメント、円安の産業連関表分析、公益社団法人日本経済研究センター、2019年11月18日。経済産業省(2019)『第48回 海外事業活動基本調査概要(2017年度実績/2018年7月1日調査)』

[3] ギリシャ元財相で経済学者・政治家のバルファキスは、次のように書いています。「通貨切り下げは国債競争力を回復するための一般的な方法だが、ギリシャはユーロを使っており、通貨切り下げによって外国からの投資を呼び込むことはできない。その代わり、劇的な緊縮策を用いれば、「対内切り下げ(internal devaluation)」として知られる効果によって、同じ結果が得られる。なぜか? 政府支出を大幅に削減すれば物価や賃金が下落する。するとギリシャのオリーブオイルや、ミコノス島のホテル宿泊料、ギリシャの船舶運賃などが、ドイツやフランス、中国の顧客にとって、ぐっとお手頃になる」(バルファキス(2019)『黒い匣』明石書店、p. 55)。

[4] 英国エコノミスト誌によれば、ビッグマックの価格比から計算されるビッグマック平価は85.71[円/ドル]、実際の為替レートは87.18[円/ドル]で、その差はわずか1.7%でした。参考URLは https://www.economist.com/big-mac-index/

[5] 本当の計算方法を知りたい人は専門の文献に当たってください。教科書としては例えば、高木信二(2011)『入門 国際金融(第4版)』日本評論社、入手容易な論文としては、例えば、幸村千佳良(2012)「実効為替レートの計算方法について」『成蹊大学経済学部論集』43(1)、pp. 37-50、を参照。

[6] 国際決済銀行(BIS)や国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行、米国FRBなど様々な機関が、それぞれの定義で、名目と実質の実効為替レート指数を計算しています。その定義の違いは、BISの資料に要約されています。Klau et al. (2006) “The new BIS effective exchange rate indices” BIS Quarery Review, March 2006, p. 64.

 

 

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drive.google.com

【みんなのお金の紙芝居シリーズ・ショート】日本のような国で財政破綻が起こらないのはなぜか?ー中・上級者向け解説動画

今回は、積極財政の説明をする必要がある人のための、短かめの10分の動画です。

 


www.youtube.com

 

貨幣と財政の本質をとらえた積極財政論の根拠説明の中でも、比較的むずかしい、(1)政府支出と国債発行で貨幣が生まれる、(2)国債は借り換えるもので、それは常に可能だ(日銀乗換と民間金融機関借り換え)、ということのロジックを、4部門バランスシート模式図で説明しました。これで、ひとまず、必ずしも課税をしなくても政府支出がまかなえることと、国債の借り換えは常に可能だということが、説明できるようになるでしょう。

 

今回の動画は、基本的な知識をお持ちの中・上級者向けに、上記の論点だけを説明したものです。民間銀行の信用創造や、インフレ抑制の方法、課税がお金を消すしくみ、などは扱っていません。

 

基礎から学びたい方は、まず

「【動画】国の借金を返すとおカネが消える-池上彰さんの「国の借金1100兆円」にこたえて」

parkseungjoon.hatenadiary.com

 

または
財政破綻論は本当か」


www.youtube.com

をごらんください。

 

また、朴勝俊&シェイブテイル(2020)『バランスシートでゼロからわかる 財政破綻論の誤り』青灯社、をお読みくださいませ。

https://www.seitosha-p.com/2020/06/post-97.html

www.seitosha-p.com

『100%マネー』第一章・要約 アービング・フィッシャー著(1935年刊)、朴勝俊訳

100%マネー

アービング・フィッシャー著、朴勝俊訳

1935年刊

※文末にPDF版を掲載しています

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$5 large-size Federal Reserve Bank Note, Series 1918(National Museum of American History - Image by Godot13)

 

はじめに

 

アメリカでは、他のいくつかの国と同様に、請求書の支払いのほとんどが小切手で行われています。

小切手を振り出す人は、小切手帳に記された口座の、「銀行に預けているお金」を引き出せるようにします。全国の小切手帳に記された金額の合計が、つまりすべての当座預金(checking deposits、銀行に預金されていて小切手の対象となる「お金」だと、一般的に考えられているもの)の合計が、米国の主な流通媒体〔広い意味でのおカネ〕を構成しています。これを実際の現金つまり「財布のおカネ」とは区別して、「通帳のおカネ」と呼ぶことにします。財布のおカネはこの2つのうちで、より基本的なものです。見ることも触ることもできます。でも通帳のお金はそうではありません。それがおカネであるとして、本物のおカネであるかのように渡すことができるのは、それが本物のおカネを「代理している」と信じられているからす。〔銀行で〕要求払いの形で小切手を「現金化」し、本物のおカネに変えることができるからです〔訳注:ここでいう当座預金は要求払い預金であって、小切手が使える以外は、普通預金と同じものと考えて差し支えありません〕。

通帳のおカネと財布のおカネの最大の違いは、後者が無記名のおカネ(bearer money)で誰にとっても有難いものなのに対して、通帳のおカネは受け取ってもらうために、受取人の特別な許可が必要なことです。

大恐慌前の代表年としての1926年には、ある推計によれば、アメリカの人々の「通帳のおカネ」の合計は220億ドルでした。一方で、米国財務省と銀行の外にある財布のおカネは、つまり国民の財布や商人の現金箱の中にある実物の無記名のおカネは、全部で40億ドルにも満たないものでした。両者を合わせると、人々がもつこの国の流通媒体の総額は260億ドルとなり、そのうち40億ドルが手渡しで、220億ドルが小切手で流通していることになります。

多くの人々は、通帳のおカネは本当にお金で、本当に銀行にあると想像しています。でも、これは事実とは大違いなのです。

では、私たちが間違って「銀行にあるお金」と呼んでいる、この不思議な「通帳のおカネ」とは何でしょうか? それは、銀行が預金者の求めに応じて(要求払いで)お金を渡すという約束に過ぎません。1926年には、220億ドルの当座預金の裏で、実際に銀行が保有していた現金は30億ドルぐらいしかありませんでした。残りの190億ドルは、お金以外の資産でした。つまり約束手形国債社債などでした。

1926年のような平時には、銀行は30億ドルぐらいの現金を持っていれば、どの預金者がいくら引き出しに来ても「現金」を渡すことができました。でも、預金者全員が一斉に現金を求めてきたら、銀行は他の資産を売却して、ある程度の現金を調達できるとしても、十分な金額を調達することは決してできません。なぜならアメリカ全体でも220億ドルに相当する現金など存在しないからです。また預金者全員が同時に金(きん)を求めてきたら、全世界から集めても十分な金を集めることはできないでしょう。

1926年から1929年の間に、流通媒体の総数は約260億から約270億へとわずかに増加しましたが、その内訳は通帳のおカネが230億、手帳のお金が40億でした。

さて1929年から1933年の間のできごとです。1929年には270億ドルの流通媒体がありました。しかし1933年になると通帳のおカネは150億ドルまで減り、財布や現金箱の「本当のおカネ」50億ドルと合わせても、流通媒体は200億ドルとなりました。260億から270億への増加はインフレーションで、270億から200億への減少はデフレーションです〔本書では物価の騰落ではなく、おカネの量の増減をインフレ・デフレと言っていることに注意〕。

1926年以降の好況と不況は、1926年、1929年、1933年の3つの年をとったとき、260、270、200という3つの数字にはっきりと現れています。

おカネの量のこうした変化は、同じような流通速度の変化によって、さらなる悪影響をもたらし。例えば1932年と1933年には、流通媒体が少なかっただけでなく、その循環が遅くなったのです。つまり、おカネの貯め込みが蔓延していたのです。

1929年と1933年のおカネの流通量はそれぞれ270億と200億でしたが、その循環回数がそれぞれ30回と20回だったと仮定すると、流通総額は1929年が27×30=8,000億ドルだったのに対して、1933年は20×20=4,000億ドルとなります。

量が変化したのは、主に預金のほうです。すでに述べたように、通帳のおカネの総額は220、230、150でしたが、現金は40、40、50でした。この不況の本質的な部分は、通帳のおカネが230億から150億へと減少したことです。つまり、みんながビジネスをするための高速道路ともいうべき流通媒体が80億ドルも消えてしまったことなのです。

人々にとって、通帳のおカネが80億ドル減った分、財布のおカネが10億ドル(つまり40から50へ)増えました。これは、人々が銀行からこの10億ドルの現金を引き出し、銀行が引き出しに応じるために80億ドルの信用〔貸付などのことを〕を破壊したことを意味します。

80億ドルもの「通帳のおカネ」の損失(破壊)は、ほとんどの人が実感しておらず、ほとんど言及されていません。2万3千キロの鉄道のうち8千キロが破壊されたとしたら、新聞の大きな見出しになったでしょう。それでもそのような災害は、私たちの主な通貨ハイウェイともいうべき、230億ドルのおカネのうち80億ドルが破壊されたことに比べれば、小さなものでしょう。人々が自分のお金と思っていたものが、80億ドルも破壊されたことは、不況において最も不吉な事実であり、そこから失業と倒産という2つの大きな悲劇が生まれたのです。

人々は、主な流通媒体230億ドルのうちの80億ドルの犠牲を強いられましたが、これは100%システムが採用されていれば避けられたことでしょう。第7章で見るように、その場合には大恐慌は起こらなかったでしょう。

通帳のおカネの破壊は、自然的で必然的なものではなく、システム(制度)の欠陥によるものでした。

現在のシステムでは、銀行は融資を行うことで「通帳のおカネ」を創造したり破壊したりしています。銀行が私に1,000ドルの融資を行い、それによって私の当座預金に1,000ドルが追加されたとき、その1,000ドルの「銀行にあるお金」は、新しく生まれたものです。それは、銀行が私への融資から新たに作り出したもので、私の通帳と、銀行の帳簿にペンとインクで書かれたものです。

すでに述べたように、このペンとインクの記録いがいには、この「お金」は実際の物理的な存在ではありません。後日、私が銀行に1,000ドルを返済する時には、私の当座預金からそれを支払います。すると私の通帳と銀行の帳簿の上で、それだけの流通媒体が破壊されます。つまり、完全に消えてしまうのです。

このように、わが国の流通媒体は、銀行の融資取引に翻弄されています。何千もの銀行は、実際のところ、無責任な民間造幣会社のようなものです。

問題は、銀行が現金を貸しているのではなく、自分が持っていないお金を、要求に応じて渡す約束をしているだけだということです。銀行はわずかな現金準備の上に、このような「信用(預金残高)」を、つまり「通帳のおカネ」を逆ピラミッド状に積み上げ、その量を増やしたり減らしたりすることができるのです。

預金者にとっても、銀行にとっても、そして何よりも何百万人もの「無実の傍観者」である一般市民にとっても、このように頭が重たいシステムが危険だということは、明らかでしょう。特に、デフレになると、人々はモノのやり取りに必要不可欠な循環媒体の一部を、奪われることになるのです。

おカネと同じ機能を持つ通帳残高の発行を銀行に認めることと、「野良猫銀行券」時代のように紙幣の発行を銀行に認めることとは、現実的にはほとんど違いがありません。それは本質的に同一の不健全な行為なのです。

当時の紙幣と現在の預金は同じようなものです。しかし、預金が目に見えない形で創造されたり破壊されたりするのに対して、紙幣は目に見える形で印刷されたり焼却されたりします。もし1929年から1933年の間に、80億枚の紙幣が焼却されていたならば、その事実が見過されることはなかったでしょう。

 主に融資に基づく当座預金(通帳のおカネ)のシステムが、現在使われている少数の国から全世界へと広がっていくと、そのあらゆる危険性がはるかに大きくなります。結局のところ、このシステムを変えない限り、将来の好況や不況は過去のものよりも悪化する恐れがあるのです。

現在のシステムの危険性やその他の欠陥については、後の章で詳しく説明します。しかし本書で提案する改善策の概要を説明するには、ほんの数行の文章で十分です。

 

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A cheque from 1905(Whitney Bank, New Orleans, Louisiana)

 

本書の提案

 

政府は、特別に創設された「通貨委員会(Currency Commission)」を通じて、すべての商業銀行が保有する資産を現金と交換して、当座預金残高の100%相当まで現金準備を増やします。言い換えれば、政府は通貨委員会を通じてこのおカネを発行し、そのおカネで銀行の債券や手形などの資産を購入したり、それらの資産を担保に銀行に貸出を行ったりするのです[1]。そうすれば「通帳のおカネ」の全額の背後に現金が、つまり「財布のおカネ」があることになるのです。

(委員会通貨または合衆国紙幣と呼ばれる)この新しいおカネは、単に当座預金の全額に現金の裏付けを与えるだけであって、それ自体が流通媒体の総額を増やすことも減らすこともありません。当座預金残高が1億ドルある銀行が、1,000万ドルの現金しか持っていなかった(残りの9,000万ドルは有価証券として保有していた)場合、この9,000万ドルの有価証券を通貨委員会に送り、9,000万ドルの現金を受け取ることによって、現金準備の総額は1億ドルに、すなわち預金残高の100%になります。

銀行は、有価証券と現金との入れ替えが完了した後は、要求払い預金(demand deposits)の金額に対して100%の現金準備を保ち続けることを求められます。こうなれば、要求払い預金は本当の意味での預金となり、預金者が託した現金ということになるのです。

こうして、新たに生まれるおカネは実質的に100%準備義務と結び付けられます。

銀行の当座預金部門は、預金者が所有する「無記名のおカネ」の保管倉庫となり、「小切手用銀行(Check Bank)」として独立の法人格が与えられます。そうなると、当座預金と準備預金の間には実質的な区別がなくなります。通帳に記された、「私が銀行に預けているおカネ」は、本当におカネであり、本当に銀行に(または近くの支店に)あることになります。銀行の預金を1億2,500万ドルまで増やすには、銀行の現金も1億2,500万ドルまで増やさなければなりません。つまり、預金者が2,500万ドル以上の現金を預けることで、つまり財布や現金箱からそれだけの現金を取り出して銀行に預けることによって、1億2,500万ドルになるのです。また、預金が減少した場合には、それは預金者が預けていたおカネの一部を引き出したことを、つまり銀行から取り出して財布や現金箱に入れたことを意味します。どちらの場合もおカネの総額に変化はありません。

100%システムに移行することによって、銀行は収益資産を失い、収益性のない現金を増やさなければなりません。それに対する補填としては、銀行が預金者からサービス料を徴収できるようにするか、それ以外の方法が検討されます(第9章で詳しく説明します)。

 

 

メリット

 

変更の結果として、一般の人々には以下のようなメリットがあります。

 

1. 商業銀行に対する取り付け騒ぎが無くなります

なぜなら、預金者のおカネの100%が常に銀行の中にあり、いつでも彼らが引き出すのに備えているからです。実際には、今よりもおカネが引き出されることは少ないでしょう。預金を失うことを恐れた預金者が、銀行の窓口で叫ぶ言葉を、みなさんご存じでしょう。「銀行は、私のおカネがないなら、すぐに出しなさい! 私のおカネがあるなら、出さなくてもいい!」。

 

2. 銀行の倒産ははるかに少なくなります

なぜなら、商業銀行を倒産させる可能性が一番高い、重要な債権者は預金者ですが、彼らの預金が100%保護されることになるからです。

 

3. 政府の有利子負債は大幅に削減されます

なぜなら、発行済み国債の大部分が(政府を代表する)通貨委員会によって、銀行から買い上げられるからです。

4. 通貨制度が簡素化されます

なぜなら、財布のおカネと通帳のおカネの間には、もはや本質的な違いはないからです。私たちの流通媒体は、100%が実際のおカネになるのです。

 

5. 銀行業務が簡素化されます

現在は所有権が混乱しています。当座預金におカネを預けたとき、預金者はそのおカネを自分のものと考えていますが、じつは法的には銀行のものなのです。預金者は銀行にあるおカネの所有者ではなく、民間企業である銀行に対する債権者に過ぎないのです。銀行が顧客から預かったおカネを貸し出すことができなくなり、同時に預金者がそのおカネを自分のおカネとして、小切手で使えるようになれば、銀行の「謎」のほとんどは消えてしまうでしょう。「ミスター・ドゥーリー」(いまのウィル・ロジャースにあたる人)は、銀行員を「あなたのおカネを保管しつつ、友人に又貸しする人」と呼んで、要求払い預金のおカネが二重に使われることの不条理さを訴えました。

将来的には、当座預金(checking deposits)と貯蓄預金(savings deposits)は明確に区別されることになるでしょう。その他の保管庫と同様に、当座預金に預けられたおカネは預金者のもので、利息はつきません。貯蓄預金口座に入れられたおカネは、現在と同様のままです。おカネが銀行のものであることに、議論の余地はありません。銀行はこのおカネと引き換えに、利息付きで返済を受ける権利を与えますが、小切手を使う権限は与えません。貯蓄預金の預金者は単に、利付債のような投資対象を購入したことになります。そして債券や株式などの投資対象と同様に、この投資の背後には100%の現金準備がなくてもかまいません。

当座預金に新制度が導入されても、貯蓄預金の現金準備率は必ずしも変える必要はありません(もちろん、準備率を高めることは望ましいことですが)。

 

6. はげしいインフレーションやデフレーションがなくなります

なぜなら銀行は、「通帳のおカネ」を作ったり壊したりする、今もっている力を奪われるためです。つまり、融資が行われても流通媒体は膨張せず、融資資金が返済されても流通媒体は縮小しないのです。当座預金の量は、他の種類の融資が増えても減っても、何の影響も受けないでしょう。当座預金はこの国の現金総額の一部であり、この総額は、ある人から別の人にたいして貸付けが行われても、影響を受けることはありません。

預金者が一斉に預金の全額を引き出したり、一斉に融資の全額を返済したり、あるいは一斉に融資の全額を債務不履行(デフォルト)したとしても、それによって国内のおカネの総量が影響を受けることはありません。それはただ再分配されるだけです。その総額は、唯一の発行者である通貨委員会がコントロールするのです(通貨委員会は、必要ならば、おカネの貯め込みや流通速度を取り扱う権限も与えられます)。

 

7. 好況や不況は大幅に緩和されるでしょう

なぜなら、これらはインフレとデフレ〔通貨量の膨張と収縮〕によるところが大きいからです。

 

8. 産業界を銀行家が管理することはほとんどなくなるでしょう

なぜなら一般に、産業が銀行家の手に落ちるのは、不況の場合に限られるからです。

 

この8つのメリットのうち、最初の2つは、銀行の倒産が多いアメリカによく当てはまるものです。残りの6つは、小切手用の預金を扱う銀行が存在する全ての国に当てはまります。7番目と8番目のメリットは、特に重要です。すなわち、流通媒体のインフレとデフレがなくなるので、一般的には好況や不況が緩和されます。特に、大きな好況や不況は、なくすことができるでしょう。

 

 

異論

 

当然のことながら、100%マネーや100%バンキングなどという新しいアイデアや、新しいと見られるアイデアは、批判にさらされるべきものです。

100%システムに疑問を持つ人が、最も多く質問すると思われるのが、次の質問です:

 

1. 100%システムへの移行によって、つまり新しいおカネで資産を買い上げることによって、ただちに国内の流通媒体が大幅に増えるのではないですか?

いいえ、1ドルたりとも増えません。それは単に「通帳のおカネ」と「財布のおカネ」を完全に交換できるようにするだけです。取引に使われている架空の預金を、本物の預金に変えるだけです。

移行後は(そして予定された通貨量に達した後には)、通貨委員会は債権を買うことによっておカネの量を増やし、債権を売ることでおカネの量を減らすことができます。ただし、いずれの場合にも、目標とされる物価水準や通貨価値を、合理的な精度で維持する義務があります。

しかし次のことは指摘しておくべきでしょう。100%の準備金を維持することと、安定した物価水準を維持することは、まったく別のことがらです。そしておそらく、どちらか一方が欠ければ、もう一方も成り立たないことになるでしょう。

 

2. 新しいおカネの「背後」には、価値のある資産があるのでしょうか?

100%システムを採用した後には、小切手に使える新しいおカネの背後には、主に国債などの資産があります。これらは、それまでの「通帳のおカネ」の背後にあったものと全く同じ資産ですが、通貨委員会が所有するものとなります。

無謀なインフレーションを防ぐためには、おカネや預金には有価証券による「裏付け」が必要だという考えは、伝統的なものです。(私たちが対比のために「10%システム」と呼ぶ)現在の制度では、預金者が現金を引き出せないのではないかと心配した時には、銀行は(理屈の上では)有価証券を売却して現金に換え、興奮する預金者にその現金を支払うことができます。まさに100%システムでも全く同じように、有価証券の裏付けと、その有価証券を売却できる可能性があります。そのうえ、米国政府の信用も付いてくるのです。何より、預金を現金に換えられないのではないかと心配する預金者も、いなくなっているでしょう。

 

3. 金本位制が失われるのではありませんか?

金本位制はすでに失われてしまっています! それ以上でもそれ以下でもありません。金の地位は現在と全く同じものになるでしょう。金の価格は政府が管理し、金の使い道はもっぱら国際収支の決済に限られます。

そのうえ、1933年以前にあったような金本位制への復帰をお望みならば、100%システムでも現在と同様に、簡単にそれを実現できます。むしろ100%システムのほうが、旧来の金本位制が復活した場合に、意図したとおりにそれが機能する可能性が、はるかに高くなります。

 

4. 銀行は貸出しに使うおカネをどうやって得ればよいのですか?

現在と全く同じです。要するに、(1)自分のおカネ(資本金)から、(2)顧客から預かった(小切手には使えない)おカネから、あるいは(3)満期になった融資の返済金から、です。

長期的には、おそらく貸し出されるおカネはもっと多くなるでしょう。貯蓄が増えて、貸出しに使えるお金が増えるからです。しかし、ふつうに貯蓄が増えることによって融資が拡大したとしても、必ずしもおカネの流通量が増えるわけではありません。

銀行の貸出しに対する唯一の新たな制約は、当たり前の制約です。つまり貸せる現金がなければ、現金を貸すことはできないということです。銀行はもはや、無からおカネを創って貸出しを増やして、通貨量を膨張させたり、好景気を演出したりすることは、できなくなるのです。

上記の3つの融資資金源(資本金・貯蓄・返済)の他に、通貨委員会が新しいおカネを作って、〔銀行から〕債券を買い入れることによって、それを銀行に渡すこともできます。しかし、こうやっておカネを追加することには、物価上昇を防ぐという基本的な制約があります。この物価は、適切な物価指数によって測定され、目標とする水準が事前に定められます。

 

5. 銀行家が損害をこうむるのではありませんか?

いいえ、その反対です。

(a) 健全な通貨システムと繁栄の回復によって、全国にもたらされる普遍的な利益を彼らは共有することができます。特に貯蓄預金が増加します。

(b) 現金準備の増加を義務づけられたことによる利益の損失は、(手数料その他の方法で)補填されます。

(c) 将来は、銀行の取り付け騒ぎや倒産のリスクから、ほぼ完全に解放されるでしょう。

 

銀行家たちは、1931年から33年のあいだに流動性(現金)を激しく奪い合って疲弊したことを、すぐに忘れることはないでしょう。誰もが自分のためにしたことが、悪魔のためになっただけでした。100%システムの下では、このような奪い合いはあり得ません。なぜなら、それぞれの銀行はいつでも100%の現金を、他の銀行がどう動くかに関わらず、確保できるからです。

 

6. この計画は、おカネと銀行の国有化のための計画なのですか?

おカネについてはそうですが、銀行についてはそうではありません。

 

 

結論

 

100%システムの提案は、まったく急進的なものではありません。基本的には同じおカネを8回も10回も貸すという、現在の異常で破滅的なシステムから、昔の金細工師(goldsmiths)のような、保守的な安全保管システムに戻すことを求めているだけです。彼らは、かつては安全な保管を請け負っていただけでしたが、やがて不適切な貸付を行うようになります。このような信頼の濫用が、標準的な慣行として受け入れられ、現代の銀行預金制度に発展したのです。公共政策の観点からすると、これはもはや信頼の濫用ではなく、預金と融資の機能の濫用というべきです。

イングランドでは、約1世紀前に銀行法が制定され、一定の最低限度額を超えて発行されたすべてのイングランド銀行券に対して(そして当時あった他の全ての発券銀行の紙幣)に対して、100%の準備金を要求することで、改革と、金細工師の制度への一部復帰を実現しました。

プリンストン大学のフランク・D・グラハム教授は、100%マネー計画を支持する声明の中で、アダムス大統領が「私的銀行券の発行を、国民に対する詐欺だと非難した。彼は当時の保守的意見の全てによって支持された」と述べています。

最後になりますが、なぜ政府の特権を銀行にタダで譲り渡すようなことを続けるのでしょうか。その特権は合衆国憲法(第1条第8項)に、「議会は貨幣を鋳造し[そして]その価値を調節する...権限を有する」と、定義されているものです。この文言どおりではないとしても、事実として、おカネを鋳造しているのは、当座預金を扱う銀行です。そして、これらの銀行が全体として、全てのおカネの価値を調節し、管理し、動かしているのです。

現在の通貨制度を擁護する人たちも、何千件もの私有の中小造幣所による無茶で勝手な仕組みのもとで、この通貨制度がうまく機能していたと主張することはできません。もしうまく機能していたら、230億ドルの通帳のおカネうち、80億ドルが失われてしまうようなことはなかったはずです。

もし銀行が、政府よりも優れた能力を発揮できるバンキング機能(融資業務)を持ち続けたいのならば、政府よりも優れた能力を発揮できない貨幣発行機能を返還する用意をしなければなりません。もし彼らがこのことを理解し、自分たちにとって新奇な提案に見えるものに対しても、このたびは「ノー」ではなく「イエス」と言うならば、他のところから重要な反対意見は出てこないでしょう。

 

 

PDF版『100%マネー』第一章・要約は以下からDLして頂けます。

引用・転載される際は、必ず出典を明記して下さい。

drive.google.com

クロス表とベイズの公式に基づく新型コロナPCR検査抑制論の検討(授業用資料)Ver.2 (PDFはVer.4)

 日本のPCR検査数(人口比)は先進国で最下位レベルです。ニュージーランドや台湾、韓国、中国などは少数でも感染者が見つかれば大量のPCR検査と隔離を行い、感染ゼロを目指していますが、日本は「専門家」たちがPCR検査の精度が低い、徹底的な検査を行うとニセ陽性が出るのでよくない、などと言う説を流布し、政府もそうした説明に影響されて住民に対する検査は徹底されていません。例えば、2021/7/1~8/16までの、東京都(人口1400万人の検査数は計54万2781件、陽性者数11万1699件、陽性率約20.6%です。他方で、東京オリンピックの選手・関係者の数万人には世界水準の徹底した検査と隔離が行われてきました(2021/7/1~8/16までの総計で73万0979件、陽性件数204件、陽性率約0.03%)[1]。


 今回はクロス表とベイズの公式に基づいて、PCR検査の精度についてやさしく学び、コロナ対策について考えてみましょう(途中の数式展開など、完全に分からなくてもかまいません)。

 

※Ver.2ではPCR検査の事例を少し加筆修正しました。また、添付のエクセルシート「PCR検査の正確さ分析シート」で特異度を簡単に求められるようにしました。

※Ver4では、東京五輪の検査が唾液抗原定量検査・唾液PCR検査・鼻咽頭PCR検査の組み合わせだというご指摘をいただき、数値例を昨年7月のJリーグ検査に変えました。ブログ本文はver.2のままで、PDF版のみver.4に差し替えています。

 

全文PDF版(ver.4)はこちらからDLできます。

drive.google.com

PCR検査の正確さ分析シートはこちらからDLできます。

docs.google.com

 

■ 感染とは何か
 PCR検査はウイルスの遺伝子を数億倍から数兆倍に複製して検出する検査です。日本において、PCR検査抑制論者の中には「検査の陽性者は感染者ではない」と主張する人がいます[2]。一般に感染という用語は、体内で病原体が増殖するようになることと定義されるので、もっともな議論にきこえます。しかし新型コロナは無症状でも他人に伝染するなどの特徴があり、慎重な扱いが求められます。国立環境研究所等の「病原体検査の指針」では「病原体が検出された場合、検体採取時点における感染が確定される」としています[3]。NHKのサイトでは、陽性などという言葉を使わずに、ただ「感染者数」として記録しています。
 この授業では、正しく行われたPCR検査での陽性を、被験者の体内から遺伝子が見つかったと、つまり体内にウイルスがいたという意味で感染と同じように用います。それが体内で増殖するか、他の人に伝染するかは関係ないものとします。他方、ニセ陽性は、被験者の体内にはウイルスはいないのに陽性になったという意味であり、これは他の被験者のウイルス遺伝子が間違って混入するなど、検査が正しく行われなかった場合のこととします。


 まず下の表のとおり整理します。アルファベットの上に横線が引いてあるものは否定を意味します(感染(A)の否定が非感染(nA)であり、陽性(B)の否定が陰性(nB))。人数がNです(※表ではAやBの文字の上に横線で記していますが、このブログの地の文ではこの記号が使えませんので、否定の意味をnで表しnA、nBとします。PDFファイルは正しく記されています)。

 

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表1に基づいて、検査の結果に関係する用語と計算式を整理したものが表2です。

 

PCR検査抑制論: 陽性者のほとんどはニセ陽性?
 PCR検査抑制論者は、PCRは精度が低く、陽性者のほとんどはニセ陽性なのだから、検査を増やすとニセ陽性者の入院が増えて、医療崩壊が起こる、などと主張してきました。ここでいう精度については、「感度」と「特異度」という指標に特に注目しましょう。上の表にあるとおり、感度は感染者が正しく陽性判定される率、特異度は非感染者が正しく陰性判定される率です。

 PCR検査抑制論者は、新型コロナが日本にも上陸した2020年の春ごろから、この感度は70%程度、特異度は90~99.9%程度しかないと主張していました[4]。実際には、後で見るように特異度がこんなに低いことはありませんが、極端な例として特異度90%で考えてみます。

 人口1万人の場合に、有病率が1%として、感度70%、特異度90%に合致するのは以下の数値例です(文章と表の数字を照らし合わせて、よく確認してください)。

 

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この場合のニセ陽性はいくらになるでしょうか? 陽性者数N(B)が1060人ですから、そのうちのわずか70人(6.6%)が本当の陽性、990人(93.4%)がニセ陽性ということになります(確認してください)。だから検査を増やすべきではないというのが検査抑制論です。

 

ベイズの公式を用いて
 上のような例を用いた検査抑制論は、ベイズの公式を用いてまことしやかに広められました。ベイズの公式を用いれば陽性的中率を一発で計算することができるのです。

 

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 ここで条件付き確率を定義します。ある事象Aが確定したあとで、そのうちさらにBが決まる確率を条件付き確率といい、P(B|A)と書きます(P(B) given (A)と読みます、書き順に気を付けてください)。ここでは、表4の左上のセルだけに注目してください。例えば、感染(A)していることが分かっている人々が、ためしに検査をしてみて実際に陽性(B)となる確率はP(B|A)となります(条件Aが後ろに書かれます)。感染者数N(A)をかけると、感染者で陽性の人の数はP(B|A)×N(A)となります。逆に、陽性(B)となった人が、感染(A)している確率はP(A|B)となります。ここで陽性者数N(B)をかけると、陽性で感染している人の数はP(A|B)×N(B)となります。どちらの計算をしても、その数は等しいので、
P(A|B)×N(B)=P(B|A)×N(A)
が成立します。この両辺をNで割ると、
P(A|B)×N(B)/N=P(B|A)×N(A)/N、ただしN(B)/N=P(B)、N(A)/N=P(A)なので
P(A|B)×P(B)=P(B|A)×P(A)
となります。この式の両辺をP(B)で割ると、陽性的中率を求める公式が、

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として得られます。これがベイズの公式です。ところで、陽性になる確率P(B)は、感染(A)となったうえでさらに陽性になる確率P(B|A)×P(A)と、非感染(nA)となったうえでさらに陽性になる確率P(B|nA)×P(nA)との和です(𝑃(𝐵)=𝑃(𝐵|𝐴)×𝑃(𝐴)+P(𝐵|nA)×P(nA))。従って、

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が導かれます。この式には、計算に必要な要素が全て含まれることがわかります。

※(1-特異度)の部分について説明すれば、特異度とは非感染者がたしかに陰性になる確率P(nB|n𝐴)のことですが、式の分母のP(𝐵|nA)は非感染者が陽性になる確率なので、P(nB|nA)+P(𝐵|nA)=1より、P(𝐵|n𝐴)=1− P(nB|n𝐴)=1-特異度、となることから、これが得られます。

 

 この式に先の数値例より有病率=0.01、感度=0.7、特異度=0.9を代入しましょう。ただし有病率は、本当の値はよくわからないので、仮定としての「事前確率」とします。

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従って、表3の数値例を表計算した結果とおなじになったことが分かります。

 

■ 再検査すると?

 さて、1回目の検査の結果として陽性的中率が6.6%となりました。ここで2回目の検査を行うとどうなるでしょうか? 陽性となったことで、有病率の事前確率がもとの1%から6.6%(0.066)まで上がったと考えられますので、これを代入すると以下のようになります。

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さらにもう一回、有病率の事前確率を33.1%に更新して検査をすると、

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つまり77.6%まで陽性的中率が上がることが分かります。これをベイズ更新といいます。

 

■ 有病率が下がると?

 先に見たように、有病率=0.01、感度=0.7、特異度=0.9のとき、陽性的中率は6.6%でした。有病率がさらに低下し、0.001(0.1%)になったらどうなるでしょうか?

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 陽性的中率は0.7%まで低下します。つまり99.3%はニセ陽性になるわけです。このような理由から検査抑制論者は、有病率(事前確率)が低い時にはむやみに検査を増やすべきではないと主張します。もっともらしい主張ですが、それは本当でしょうか?

 

■ 特異度が100%ならば?
 実はPCR検査は、検体が正しく採取されているならば、技術的には感度100%、特異度100%です(詳しくは[5])。少しでもウイルスの遺伝子があれば大量複製して発見できて陽性となり、ゼロならばいくら複製してもゼロなので陰性となります。ただし臨床では感度は、感染者の検体が良いタイミングで確実な方法でとれない場合も考慮すると95%前後とされます。特異度は非感染者の検体が汚染されるなど、めったにない状況を考慮しても、あとで確認するように実績値としてほぼ100%です。では、特異度が1なら先の計算はどうなるでしょうか? 分母にある(1-特異度)=(1-1)=0になりますから、この項が消えて、

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です。

 つまり特異度が100%なら、感度や有病率に関わらず陽性的中率は常に100%になります。ニセ陽性はいなくなるのです。これがPCR検査の信頼性であり、日本以外の諸外国がPCR検査を徹底的に行っている理由です。

 

■ 実際に特異度は100%なのか?

 しかし、どんな検査も特異度100%はありえない、と信じている「専門家」は少なくありません。では、PCR検査の実際の特異度を確認してみましょう。数値例には、最初に出てきた東京都とオリンピックの実績値(2021/7/1~8/16)を使います。
東京オリンピックでは選手や関係者に対して、無症状でも徹底した検査と隔離が行われました。総計73万0979件のうち、陽性件数204件、陽性率約0.03%(正確には0.0279%)でした(同じ人に何度も検査がなされたので、人数ではなく件数と呼びます)。有病率(事前確率)はこの陽性率を参考に0.03%(つまり73万0979×0.0003≒219件が検査時点で感染、残りの73万0760件が非感染)としましょう。この情報に、感度と特異度の想定値を入れれば、2x2表を再現することができます。まず、感度70%、特異度90%ならどうでしょう。

 

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 この場合、陽性になるのは感染の70%にあたる154件と、非感染の10%にあたる7万3076件の、合わせて7万3229件、ニセ陽性率は99.8%となるはずです。実際の陽性数204件とは全く違います。これは、感度70%、特異度90%という設定が間違っているということです。
 では感度95%、特異度100%で計算してみましょう。

 

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 陽性数は208件となり、実際の陽性数204件とほぼ同じになります。そしてニセ陽性はゼロになります。ちなみに特異度を99%や99.9%に高めても、あり得ないほどたくさんの陽性とニセ陽性が出ます(99%の場合は陽性7516件のうち97.2%がニセ陽性、99.9%の場合でも陽性939件のうち77.8%がニセ陽性となります。興味があれば同様の手続きで確認してみてください)。したがって、特異度は100%だと考えるのが妥当です。PCR検査はこれほど精度が高い検査なので、世界で広く用いられているのです。

 念のため、特異度100%がまだ信じられない人のために、実際の感染はゼロで、陽性は全てニセ陽性という無理な仮定をして特異度を計算してみましょう。表7を描くことによって、特異度は73万0775÷73万0979=99.97%です。PCR検査の実際の特異度がこれより低いことはありえません。

 

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練習問題:
 東京都は2021年7月1日から8月16日の間に、検査数総計54万2781件、陽性者数11万1699件、陽性率20.6%でした。東京都民には、徹底的に無症状の人や濃厚接触者以外にも大量に検査するというようなことは行われていませんので、検査の対象になった人は、ほぼ感染していそうな人たち(事前確率が高そうな人たち)でした。陽性率を参考に事前確率を0.2と設定して、感度70%、特異度99%の場合と、感度95%、特異度100%の場合に分けて表を書き、それぞれの陽性者数と陽性的中率を求めましょう(この場合も、特異度100%が妥当であることが確認できます。ただし、事前確率が高いので、特異度が低い場合でも陽性的中率が高く、ニセ陽性がそれほど出ないことも分かります)。

※練習問題の解答はこの記事の最後にあります。

 

参考:
[1] ・東京都「新型コロナウイルス感染症検査実施件数」「新型コロナウイルス感染症確定日別による陽性者数の推移」
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000010d0000000086
https://catalog.data.metro.tokyo.lg.jp/dataset/t000010d0000000087
・TOKYO 2020 COVID-19 Positive Case List, Tests and Total Confirmed Positives
https://olympics.com/tokyo-2020/en/notices/covid-19-positive-case-list
[2] 例えば、本間真二郎(2020)「新型コロナ「検査の陽性者」=「感染者」ではない…!PCR検査の本当の意味」『現代ビジネス』2020.09.03 (https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75285
[3] 国立感染症研究所ほか(2021)『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第3.1版』 p.5 (https://www.mhlw.go.jp/content/000768499.pdf
[4] 山中たつはる「ベイズの定理を悪用し、コロナウイルスPCR検査の有用性を否定する医師達」ブログ臨床獣医師の立場から(https://tatsuharug.com/abuse-bayes)。このページに名前が挙げられている医師には、[特異度90%] 東京大学公共政策大学院・鎌江伊三夫特任教授、東北大学大学院医学系研究科発達成育医学講座胎児医学分野研究室長・室月淳氏、[特異度99%] 九州大学教授・馬場園明氏、東北医科薬科大学病院感染症内科・福家良太氏、感染症専門医・岩田健太郎氏、診断病理医・峰 宗太郎氏、医療法人社団悠翔会・佐々木淳氏、[特異度99.9%]感染症専門医・忽那賢志氏、新型コロナウイルス感染症対策分科会会長・尾身茂氏、東邦大学医学部・東邦大学医療センター大森病院教授・中田雅彦氏がいます。次の電子書籍も参照: 山中たつはる(2021)『コロナ禍で見えてきた おかしな専門家と知識人』リーダーズノート出版
[5] 牧田寛(2021)『誰が日本のコロナ禍を悪化させたのか?』扶桑社、p.223、p.224

 

<他の参考事例>

・上記の東京オリンピック関係者検査、73万0775件検査して陽性204人。

 (https://olympics.com/tokyo-2020/en/notices/covid-19-positive-case-list

 →本文では、事前確率0%として全員ニセ陽性と仮定しても特異度99.97%以上としましたが、

 事前確率を検査陽性率と同じ0.0279%として最低限の特異度を求めても99.9987%以上です。

・2020年7月の日本のJリーグの検査(7/25発表)、3300人を検査して1人が陽性、

 (https://www.jleague.jp/news/article/17454

 →事前確率を0%とし、全員ニセ陽性と仮定しても特異度99.970%以上。

 →事前確率を検査陽性率と同じ0.03%とし、最低限の特異度を求めても特異度99.9982%以上。

・2020年はじめ、中国の武漢で約137億円かけて989万9828人にPCR検査を実施、

 無症状感染者300人を確認、陽性率は0.00303%。

 (山中たつはる(2021)『コロナ禍で見えてきた おかしな専門家と知識人』リーダーズノート出版、位置157)

 →事前確率を0%とし、全員ニセ陽性と仮定しても特異度99.99697%以上。

 →事前確率0.003%とし、最低限の特異度を求めても99.9998%以上。

・2020年秋、中国の天津で約1000万人を検査、980万人の結果のうち12例が陽性。

 (https://www.qingdao.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00392.html

 →事前確率0%として、全部ニセ陽性と仮定しても特異度99.99988%以上。

 

 

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【翻訳】イベルメクチン:COVID-19という新たな 世界的惨事に対する有効性が示された ノーベル賞受賞の多面的薬剤

サンティン、シャイム、マカロフ、ヤギサワ、ボロディ「イベルメクチン:COVID-19という新たな世界的惨事に対する有効性が示されたノーベル賞受賞の多面的薬剤」翻訳 ver.1 (2021/8/7)

翻訳:朴勝俊(関西学院大学教授)

これは,論文が受理された後に,表紙やメタデータの追加,読みやすさのためのフォーマットの変更などを行った論文のPDFファイルですが,まだ最終的な記録ではありません。このバージョンは、最終的な出版物になるまでに、さらにコピーやタイプセット、レビューを受けることになりますが、論文の早期公開のためにこのバージョンを提供しています。制作過程において、内容に影響を与えるような誤りが発見される可能性があり、ジャーナルに適用されるすべての法的免責事項が適用されることをご了承ください。

© 2021 The Author(s). Published by Elsevier Ltd.

 

※原論文の参考文献のうち22番は取り下げられています。ご注意ください。

※専門外のため誤訳がありうることをご了承頂き、正確な内容は原典でご確認ください

※文末にPDF版があります

 

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概要

2015年にノーベル生理学・医学委員会は、感染症の治療に関する60年ぶりの賞を、世界で最も壊滅的な熱帯病に対して使用されている多面的薬剤イベルメクチン(IVM)の発見に与えた。2020年3月に、新たな世界的疫病であるCOVID-19に対してIVMが初めて使用されてから、これまで20件以上の無作為化臨床試験(RCT)が入院および外来治療に対して行われてきた。2021年に報告されたIVM治療に関するRCTの、7つのメタアナリシスのうちの6つで、COVID-19による死亡者数の顕著な減少が認められており、死亡率の平均相対リスクは対照群に対して31%であった〔訳注:死亡率が3割程度に低下する〕。最大量のIVMを投与したRCTでは、対照群と比較して死亡率が92%減少した(被験者総数400名、p<0.001)。ペルーで行われた大規模なIVM治療では、最も大規模な処置が行われた10州において、30日間における過剰死亡が平均74%減少した。死者数の減少は25州すべてにおいて、IVM配布の程度と相関していた(p<0.002)。また、SARS-CoV-2などのベータコロナウイルスの2つの動物モデルにおいても、IVMによる罹患率の大幅な低下が確認された。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に競合的に結合することが、IVMの生物学的メカニズムであるが、これはエピトープ特異的なものはないと考えられ、新たに出現したウイルスの変異株に対しても十分な効果を発揮する可能性がある。

 

はじめに

2015年の、イベルメクチン(IVM)と抗マラリア薬の発見に対するノーベル賞は、感染症の治療薬を対象にしたものとしては、1952年にストレプトマイシンが受賞して以来の受賞となった[1]。多面的な効力を持つ大環状ラクトン[2,3]であるIVMは、1987年から世界中で使用され、オンコセルカ症とリンパ系フィラリア症という2つの壊滅的な熱帯病に対して大きな前進を見せた[4]。さらなる世界的な惨劇に対してIVM治療が開始されてから、1年が過ぎた。COVID-19のIVM治療が初めて実施されてから1年の間に、COVID-19のIVM治療に関する20件以上の無作為化臨床試験(RCT)の結果が報告されており[2,6,7]、25カ国でCOVID-19の入院および外来治療が行われた[2]

IVMの発見でノーベル賞共同受賞者となった大村智博士らは最近、COVID-19に対するIVMの臨床活動を包括的にレビューし、死亡率と罹患率の大幅な低下を示す証拠が圧倒的に多いと結論付けた[2]。我々のレビューも、新たな複数の研究に関する検討を加えた上で、この結論を支持している。

 

SARS-CoV-2および近縁種であるベータコロナウイルスのIVM治療に関する動物実験

 COVID-19に対するIVM治療の臨床結果を検討するための枠組みとして、関連する動物実験で、ヒト相当で低用量のIVMを用いたものがある。ゴールデンハムスターSARS-CoV-2を鼻腔内接種し、COVID-19の症候性感染を引き起こしたさい、IVMを同時に投与することで臨床症状の重症度が有意に低下した(p<0.001)。ウイルス量は減少しなかったものの、無嗅覚症の発生率が3分の1になり、肺組織のIl-6とIl-10との比率が大幅に減少するなどの改善が見られた[10]。別の動物モデルでは,マウスにマウス肝炎ウイルスMHV-A59[11]を感染させた[8]。これはSARS-CoV-2やSARS-CoV,MERSと同様に,ヘマグルチニン・エステラーゼ[12]を発現しないベータコロナウイルス株である。感染マウスでは病理組織学的に重度の肝障害が見られたのに対し、IVM治療を受けたマウスでは肝ウイルス量が半分になり、肝障害も最小限に抑えられ、非感染の対照マウス群で観察されたものと有意差はなかった。

 

COVID-19のIVM治療および予防に関するRCT

上に引用したように、COVID-19のIVM治療に関するRCTは、現在までに20件以上行われている。2021年に登場した、COVID-19のIVM治療研究のメタアナリシスをGoogle Scholarで検索すると[13]、RCTのみから結論を導いた研究が7件あった[6,14-19]。これらのうち4件では、コクランの分析手法を用いて算出された、IVM治療群と対照群の死亡率の相対リスク(RR)は0.25~0.37で、平均は0.31であった[6,14,15,19]〔訳注:これは死亡率が約7割下がったことを意味する〕。他の3つのメタ分析では、オッズ比がそれぞれ0.16、0.21、0.33で、平均0.23であった[16-18]〔訳注:オッズ比は死亡と治癒の比率(オッズ)を、治療群と対照群で比較したものであり、この平均値は対称群と比べてオッズがおよそ4分の1に下がったことを意味する〕。これら7つのメタアナリシスのうち6つは、COVID-19の死亡率を減少させるIVMの有効性について有意[6,14-16]あるか、その可能性がある[17,18]と結論づけている。そのうち1つのメタアナリシスは、その最初のバージョン[20]ではIVMの有効性を示す証拠はないとし、IVM治療と対照のRRを1.11と報告していたが、このRR値を0.37に変更して〔括弧:死亡率が約3分の1になることを認めて〕、ひとつ研究[21]に関して治療群と対照群の死亡数を取り違えていたのを訂正した後も、同じ結論に拘泥していた[19]。これら7つのメタ分析のうちで最も新しく包括的なものは、11のRCTから得られたIVM治療群の被験者1,101人の死亡数31人と、対照群の被験者1,064人の死亡数91人の合計をプールしたものであるが、これは死亡率の67%の減少を意味当し、全体的な効果の統計的な有意性はp=0.005であった[16]。最大量のIVMを使用したRCTでは、1~4日目の各日に400μg/kgを投与したが[22]、治療群と対照群(各200人)の死亡者数は2対24で、COVID-19による死亡率は92%減少した(p<0.001)。

上記のようにCOVID-19のIVM治療の有効性を示す臨床的証拠が圧倒的に多いことに対して、2021年の時点で異議が唱えられていたのは、これらのRCTのいずれも「主流の査読付き学術誌」に掲載されていなかったためである[23]。しかし、このギャップを埋めるごとく、2021年にCOVID-19治療に関する5つのRCTが主要学術出版社の雑誌に発表された[24-28]。また2021年には、COVID-19のIVM治療に関する他の3つのRCTが発表された。そのうちの1つはIVM治療の方が、入院期間が短いことを報告したが、統計的有意性が不足している(p=0.08)[29]。IVMを他の2つの薬物治療群と比較した研究は、プラセボ群との比較は行わず、便益を認めなかった[30]。さらには、コロンビアのカリで行われた追加の研究では、以下に述べるように、治療薬とプラセボ服用の混同がみられた。

 IVMの有効性を裏付けるRCTの証拠に対しては、研究の母集団が小さすぎるという反論もあった[31]。しかし、臨床試験デザインでは、効果の高い薬剤は、少ないサンプルサイズで統計的に有意な結果を得ることができ、効果の低い薬剤にはより大きな試験集団が必要となることがよく知られている[32]。例えば、上述したように、COVID-19の最大用量のIVM治療試験では、死亡率を追跡した結果、治療群と対照群の200人ずつの死亡数は2対24であり[22]、z検定のp値は0.0006であった[33]。しかし例えば、相対リスク(RR)が75%程度の薬剤の場合には、治療群と対照群で同じ統計的有意性を得るためには、それぞれ3,800人以上の被験者が必要となる[33]。大規模な研究集団は新薬の副作用(adverse effects, AE)をスクリーニングするのに有用であるが、IVMは1987年以来、世界中で37億回投与されて安全に使用されており[2,3],標準的な単回投与量である200 μg/kgよりもはるかに多い量でも許容されている[34,35].COVID-19治療のRCTでは1,500 μg/kg[36]や1,600 μg/kg[22]、3,000 μg/kg[37]の累積投与量で4日または5日にわたって使用されているが、軽度ないしは一過性の副作用がわずかに認められるのみである。

COVID-19の高用量IVM治療の安全性を確立したRCTの中には、コロンビアのカリで実施されたものがあるが、これは中央値37歳の概して軽度のCOVID-19症例を対象とし、対照群には1名の死亡者を含む[36]。この研究では、IVM 治療による統計学的に有意な症状の改善は認められなかったが、顕著な異変が報告された。すなわち、IVM 治療の高用量に特徴的な副作用が、IVM 治療群とプラセボ群でほぼ同じ割合で発生していたのである。その内容は、一過性の目のかすみ(11.3%、11.6%)や、めまい(35.6%、34.3%)などであった。これらの対照群でのIVM使用の兆候が見られたのは、試験期間中に試験地域でIVMの店頭販売が急増したためである(原典:補足表1)。さらに、38名の患者に対してIVMがプラセボと間違えて投与されていたことが、主任薬剤師が1カ月後に発見したことによって、本試験の治療群と対照群の境界に疑問が生じた(原典試験、p.3、試験プロトコル補足資料、p.43)。さらに、64人の対照患者にプラセボとしてブドウ糖生理食塩水を使用したことで盲検化が行われたが(IVMは独特の苦味がある)、代わりのプラセボ溶液の組成は特定されていなかった[38]

以上のようなCOVID-19治療におけるIVMの有効性の知見を裏付けるものとして、予防試験においてSARS-CoV-2に対する活性が示唆された。3件のRCTでは、COVID-19患者に曝露された100人[22]、117人[39]、203人[40]コホートにIVMを投与して予防効果を評価している。これらの研究では、いずれも週に少なくとも150 μg/kgの量のIVMを使用しており、COVID-19の発症を統計的に有意に減少させたことが報告されており、それぞれのRRは対照と比較して20%、26%、13%で、中等症および重症の発症はより大きく減少した。COVID-19の予防に関する別のRCTでは、42日間の観察期間の第1日目に、617人の被験者に12 mg(約150 μg/kg)のIVMを1回だけ投与し、他の3つの予防的投薬群では、その期間中に毎日投与を行った[41]。低容量のIVMの1回だけ投与した群は、4つの投薬群の中で最も優れた結果をもたらした。対照群と比べて、COVID-19の症状と急性呼吸器症状の両方で50%近くの、統計学的に有意な減少を示したのである。  

 

ペルーではIVM使用時に過剰死亡が14分の1に減少し、IVM使用終了後は13倍に増加した

 25カ国におけるCOVID-19のIVM治療の臨床経験は、RCTをはるかに超えるものであり、結果は要約されているが、追跡が不完全で対照群がないため、ほとんどが評価対象外とされてきた。ペルーにおける、国家的に認可された治療の記録は、注目すべき例外である[42]。ペルーの10の州で、多くの人々を対象とするCOVID-19のIVM治療がなされた。これは軍隊主導の大規模な取り組みであるMega-Operacion TaytaMOT)によって行われ、各州で異なる日付で開始された。これらのMOT実施州では過剰死亡者数がピーク時から30日間で平均74%と急激に減少したが、これはMOT開始日と強く関係している(図1B)。ペルーの14州では、現地でIVMの配布が行われたため、ピーク時から30日間の過剰死亡数の減少率は平均53%であったが、パンデミックの第一波の際に、抑制的政策によってIVMの配布がほとんど行われなかったリマでは、30日間の過剰死亡数の減少率は25%であった。     

州別の過剰死亡数の減少(絶対値)は、図1Cに示すように、IVM配布の程度(最大:MOT実施州、中程度:地域配布、最小:リマ)と相関している(ケンドールの順位相関係数 τb = 0.524、p<0.002)。全国的には、2020年12月1日までの4ヶ月間で過剰死亡数が14分の1に減少した。しかし、11月17日に就任したペルーの新大統領の下で、IVM治療を制限する政策が実施された後、12月1日から2021年2月1日までの2カ月間で死亡数が13倍に増加した(図1A)。ロックダウンや集団免疫などの潜在的な交絡因子は、Google社のコミュニティ移動データや、血清反応率、人口密度、SARS-CoV-2遺伝子変異の地理的分布などを用いて除外し、図1A以外の解析対象を年齢60歳以上に限定した。2020年7月以降、パンデミックの症例死亡数を大幅に過少報告していたことをペルー保健省が把握しているため、すべての分析においてCOVID-19の症例死亡数ではなく,過剰死亡数を用いた[43].この違いはそれ以降も、国民健康データベースにおいて、COVID-19症例死亡数と全自然死の数値に一貫して現れている[42]

 

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図1  A)ペルーの全国民人口における、全原因による過剰死亡(全年齢)。これらは8月1日から2020年12月1日まで14分の1に減少し、IVMの使用が制限された後は2月1日までに13倍に増加した。AとBに関して、縦軸の値(y値)は7日間の移動平均値であり、BとCは60歳以上である。データはPeru’s National Death Information System (SINADEF)によるもの。

B)軍主導の大量IVM配布プログラム「MOT作戦」が実施されたほぼ全ての州で過剰死亡者数が減少したが、Pascoは3日間しかプログラムが実施されておらず、例外である。●MOT開始日の死亡者数、▲ピーク時の死亡者数、■ピーク時から30日後の死亡者数。Juninでは、MOT開始の13日前に地元のルートでIVMを配布した。

C)25州におけるIVM配布の程度別に見た、ピーク死亡時から30日後の過剰死亡数の減少率: MOTを最大限に実施した州(+)は平均74%減、地域配布を行った州(○)は平均53%減、最小減実施地域のLima(×)は25%減であった。これらの州別減少数の絶対値は、IVM配布の程度と相関している(Kendall τb = 0.524, p<0.002(Spearman rho = 0.619, p<0.001)となった。

これらのデータはすべて、一般公開されているペルーの国家データベースから得たものであり、関連する圧縮データセットはDryadデータリポジトリから入手可能である[42]

 

IVMを用いた併用療法とその他の進行中の研究

 IVMと補助薬を用いた併用療法は、これまでに実施されたRCTにおいて、COVID-19に対する有効性が示されている[24,44]。IVMとドキシサイクリンと亜鉛を用いて、治療前の spO2〔訳注:パルスオキシメーターで測定する経皮的動脈血酸素飽和度〕 が 90%以下の重症・重篤な症例を治療し、24時間後のspO2のた結果は、Sabine Hazan医学博士とともに、本論文の共著者ボロディ(TJB)が報告するであろう。IVM投与後1~2日でCOVID-19の重篤な症状が顕著に改善することが、本論文の筆頭著者(サンティン、ADS)が治療した数名の患者で確認されている。また、COVID-19に対するIVMの、このような短期的な臨床効果を客観的に追跡する研究が進行中である。IVMとフルボキサミンなどの薬剤を併用した他の併用療法は、医学的研究によって有意な便益が示されているが[45]、これについては米国のFLCCCアライアンス(https://covid19criticalcare.com)が情報提供を行っている。

併用療法の治癒可能性は、消化性潰瘍に関する30年前の医学的ブレイクスルーによって実証されていた。この病因としてのヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の発見は、2005年にノーベル医学賞を受賞した。1990年には、Thomas J. Borody博士が、ヘリコバクター・ピロリに対する併用療法の初の臨床試験を発表し、3つの再利用可能な薬剤(亜硝酸ビスマスと2つの抗生物質)からなる3剤併用療法で96%の治癒率を達成した[46]。1990年から2015年の間にオーストラリアでは、消化性潰瘍に対してこの3剤併用療法を適時に使用したことで、18,665人の死亡を防いだと推定される[47]。1990年代後半には、消化性潰瘍の緩和薬であるタガメットとザンタックの特許が切れ、3剤併用療法が世界の標準治療となった。

 

結論

 私たちは、COVID-19に対するIVM治療を、予防接種と相補的に世界中に拡大すべきことを、これまでのエビデンスが支持するものと考える。IVMの生物学的メカニズムとして示されている、SARS-CoV-2スパイクタンパク質との競合的結合は、レビューされているように、エピトープ特異的ではないものと考えられ、新興のウイルス変異株に対しても十分な効果が得られる可能性がある。IVMは1987年以来、37億回投与されており、標準的な投与量よりもはるかに多い投与量でも忍容性が高く[34,35]、前述のCOVID-19の高用量治療に関する3つの研究でも重篤な症状は見られなかった[34,36,37]。世界的なCOVID-19の緊急事態において、変異ウイルス株やワクチン接種の拒否、そして数ヶ月で免疫力が低下しうることが新たな課題となっているが、IVMはこのパンデミックに対して展開される治療法の、効果的な構成要素となり得るものである。

 

資金提供:この論文に関する資金供与はありません。

倫理的承認及び参加同意:この研究はレビューであり倫理的承認は必要ありません。

利害相反:著者のうちTJBは、IVMを含むCOVID-19の費用対効果の高い治療法の商業化を目指しているTopelia Therapeutics(カリフォルニア州ベンチュラ)の代表者の一人です。他のすべての著者は利益相反を報告していません。

 

参考文献

  1. Ergonul O, Yalcin CE, Erkent MA, Demirci M, Uysal SP, Ay NZ, et al. Who can get the next Nobel Prize in infectious diseases? International Journal of Infectious Diseases. 2016;45:88-91.
  2. Yagisawa M, Foster PJ, Hanaki H, Omura S. Global Trends in Clinical Studies of Ivermectin in COVID-19. The Japanese Journal of Antibiotics. 2021;74(1).
  3. Campbell WC. History of avermectin and ivermectin, with notes on the history of other macrocyclic lactone antiparasitic agents. Curr Pharm Biotechnol. 2012;13(6):853-865.
  4. Crump A, Ōmura S. Ivermectin, 'wonder drug' from Japan: the human use perspective. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2011;87(2):13-28.
  5. Rajter JC, Sherman MS, Fatteh N, Vogel F, Sacks J, Rajter J-J. Use of Ivermectin is Associated with Lower Mortality in Hospitalized Patients with COVID-19 (ICON study). CHEST. 2020. doi:10.1016/j.chest.2020.10.009.
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※PDF版はこちら

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【動画】戦後の経済成長を支えた財政投融資


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戦後の経済成長を支えた財政投融資に注目する動画を作りました。戦後日本の財政はながらく健全財政(一般会計の国債発行ゼロ)だったのに、どうやって戦後の産業復興やインフラ建設などの資金を、政府がまかなうことができたのでしょうか? 広い意味での政府が、いっさいの負債(貨幣発行や借り入れ)によらずに資金をまかなったと考えるのは間違いです。

 

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終戦直後のインフレ期には、復興金融公庫の資金調達のための債券(復金債)は、大部分が日銀によって引き受けられていました。そして、財政投融資の制度が確立してくると、その財源の多くは、経済成長の成果を人々が郵便貯金などの形で蓄え、その巨額の資金を政府が運用していたのです。

 

さいごに、石橋湛山蔵相が、戦後インフレまっただ中の1946年4月に、次のような素晴らしい演説をしていたことを、紹介しておきます。

 

「インフレは、通貨収縮、すなわちデフレ政策によって処理しうるものでは断じてない。饑饉物価は、物の生産と出廻りによってのみ救治しうる。...財政の第一要義は...生産活動を再開せしめることにある。たとえ財政おいて赤字を生じ、ために通貨の増発を来すとも、何ら差し支えがない。...かえってこれこそ真の意味の健全財政であると信ずる」

 

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動画で使われているスライドは、こちらからDLして頂けます。
使用される場合は、出典を明記して下さい。

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【動画】シンポジウム 「積極財政をどのように考えるか―MMTに関係する報告と討論―」

公益財団法人政治経済研究所のシンポジウムでお話させて頂きました。当日の動画が公開されていますので、ぜひご覧下さい。

 

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公益財団法人政治経済研究所の主催シンポジウム
「積極財政をどのように考えるか―MMTに関係する報告と討論―」

 

報告者 朴勝俊(関西学院大学教授)
論 題 「貨幣の本質と財政破綻論」YouTubeで動画を公開中)

討論者 岡本英男(東京経済大学教授、学長)
    建部正義(中央大学名誉教授)
司会者 齊藤壽彦(政治経済研究所理事、千葉商科大学名誉教授)

 

 新型コロナウィルスの感染拡⼤とその対応策によって、我が国の経済は甚⼤な被害を受け、多くの⼈々が厳しい⽣活状況へと追い込まれました。このような状況のなかで、国による積極的な財政⽀援が求められていますが、⼀⽅で、⽇本の財政は危機的な状態であり、無駄な歳出の削減や消費税増税などによって財政健全化を図る必要があるということも⼀般に広く認識されています。

 しかし、本研究会の報告者である朴勝俊⽒は、MMT(現代貨幣理論)を援⽤することで、⽇本の財政を新たな観点から捉え直し、積極財政の可能性について分析し、提⾔されています。

 本研究会では、朴勝俊先⽣とともに、⽇本の財政について再検討します。

 

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 公益財団法人政治経済研究所のHPはこちら

www.seikeiken.or.jp