朴勝俊 Park SeungJoonのブログ

反緊縮経済・環境経済・政策に関する雑文 

エコノメイト・マクロ計量モデルで消費税減税を試してみた

先日、念願の「エコノメイト・マクロ計量モデル」を入手した。これは過去30年以上の実績があり、販売元の湘南エコノメトリクスが膨大なデータファイルと計量モデルのアップデートを続けてこられているものだ。今回入手したのは基本システムと、マクロ経済モデル&データ2019年版である。

マクロ経済モデルは内生変数の数が106個の、中規模の標準的なマクロ計量モデルで、主に国民経済計算(GDP統計)の主要データをモデル化したものである。2019年版は、2017年までのデータを用いてモデル推計が行われている。政策変更の影響が見たければ、外生変数を変更すれば、簡単にシミュレーションが行える。

 

今回は手始めに(モデル使用の練習として)、デフォルトのモデルをそのまま用いて、消費税率の変更の影響を見てみた。シミュレーション期間は2018年から2025年で、消費税率は以下のように設定する:

 

1.ベースライン: 2018年は8%、2019年は9%として、あとは10%とする

2.シナリオ1: シミュレーション期間を通じて8%を維持する

3.シナリオ2: 2018年は8%、2019年は9%、2020年は10%として、
2021年以降は0%とする。

 

 これを実行したところ、以下のような結果となった。

 

f:id:ParkSeungJoon:20200904174733p:plain

 

 実質GDPは、ベースラインと比べて、シナリオ1で僅かに高まり、シナリオ2では大幅に高まる(2025年で、ベースライン比6.5%増)。

 

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 物価は、ベースラインではデフレーションが予測されていることが分かる。これと比べて、シナリオ1では僅かに高まり、シナリオ2では大幅に高まる(2025年で、ベースライン比17.1%増)。また、シナリオ1では物価安定目標値の年率2%上昇に至らない(2020年から2025年までの年平均で0.6%)。それに対して、シナリオ2では物価安定目標を超えてしまう(同、年平均で3.0%)。消費税減税によって、デフレスパイラルが引き起こされるということはなさそうである。

 

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 税収合計は、消費税減税にもかかわらず、シナリオ1、2ともに最終的にはベースラインを上回る。景気回復によって税収が増えるということである。ただし、この税収の金額は(マニュアル等に明記されていないが)おそらく名目であるので、実質額としても増加しているかどうかについては注意が必要である。

 

 ここまでの結果報告は、入手できたマクロ計量モデルを試しに使ってみた、というだけのもので、読者の皆さんはこれを参考とするにとどめ、何らかの論拠として活用するようなことは控えていただくようお願いしたい。

 今後はエコノメイト・マクロ計量モデルの推計式をより丹念に読み込んで、その構造に関する理解を深めるとともに、独自のモデルを構築してシミュレーションを行うことが課題である。

 

実質GDP

10億円(実質)

     

 

BASE

シナリオ1

シナリオ2

1対BASE増

2対BASE増

2018

535,594

535,594

535,594

0.0%

0.0%

2019

540,123

541,463

540,123

0.2%

0.0%

2020

544,100

547,723

544,100

0.7%

0.0%

2021

548,257

553,418

561,596

0.9%

2.4%

2022

552,618

558,842

575,343

1.1%

4.1%

2023

556,939

563,978

585,501

1.3%

5.1%

2024

561,432

569,160

594,522

1.4%

5.9%

2025

565,313

573,621

602,109

1.5%

6.5%

           

物価指数(GDPデフレータ)

     

 

BASE

シナリオ1

シナリオ2

1対BASE増

2対BASE増

2018

102.8

102.8

102.8

0.0%

0.0%

2019

103.0

103.2

103.0

0.2%

0.0%

2020

102.6

103.4

102.6

0.7%

0.0%

2021

102.0

103.6

103.8

1.5%

1.8%

2022

101.5

104.0

106.9

2.4%

5.3%

2023

101.3

104.6

110.8

3.2%

9.3%

2024

101.4

105.4

114.8

3.9%

13.3%

2025

101.8

106.5

119.3

4.6%

17.1%

           

税収合計

10億円(名目?)

     

 

BASE

シナリオ1

シナリオ2

1対BASE増

2対BASE増

2018

95,210

95,210

95,210

0.0%

0.0%

2019

97,637

96,782

97,637

-0.9%

0.0%

2020

99,870

98,375

99,870

-1.5%

0.0%

2021

100,347

99,595

91,256

-0.7%

-9.1%

2022

100,636

100,982

93,054

0.3%

-7.5%

2023

101,074

102,565

97,988

1.5%

-3.1%

2024

101,768

104,338

103,867

2.5%

2.1%

2025

102,811

106,359

110,098

3.5%

7.1%