朴勝俊 Park SeungJoonのブログ

反緊縮経済・環境経済・政策に関する雑文 

構造VARモデルを用いた為替レートのカバー無し金利平価説に関する検討(V3)

 本研究では、米日金利差が拡大すると円安が進むとするカバー無し金利平価説の妥当性に関して、原油価格およびキャリートレード金利差、米日国債金利差(十年物)、為替レートに関する日次のデータを用いて、構造VAR分析によって検討した。構造VARは通常の無制約のVARと違って、同日のうちの変数間の影響関係を考慮することができる。

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 原油価格と、キャリートレード金利差、米日国債金利差、および為替レートの4変数を用いた構造VAR分析を、金利平価説がよく当てはまっていたとみられる2022年1月から2024年3月までのデータを用いて行ったところ、4日分のラグを用いた分析では、金利差拡大1%あたり最大で約6.06 [円/ドル]の円安が、また29日分のラグを用いた分析では、同8.83 [円/ドル]の円安が、引き起こされることが分かった。これはキャリートレード金利差が重要であることを示唆する結果であるが、これは構造VAR分析に内生変数として含める順序に依存するので注意が必要である。順序を十年物金利差と入れ替えたり、キャリートレード金利差を除外したりすれば、十年物金利差がそれと同様の説明力を発揮することになった。

 上記のような関係は、はるかに長期の分析においても、また金利差と為替レートの関係性が崩れたように見えた2024年4月以降のデータを用いた分析でも、定性的には同様にみられた。1999年1月から2026年6月までの27年間のデータを用いて分析すれば、金利差拡大1%あたり約4.98 [円/ドル]程度の円安効果があったと見られる。2024年4月以降のデータによる分析でも、キャリートレード金利差拡大1%あたりの円安効果は約7.42 [円/ドル]であることが示された。すなわち、金利差変数としていずれを用いても、その結果に大差はなかった。2024/4/1~2026/6/30のデータを用いて推計した構造VARモデルで、2026/7/1~7/23の為替レートの動きを予測してみたところ、いずれの金利差変数を用いたとしても、静学的予測は非常に誤差率が小さく、動学的予測もかなり良好なパフォーマンスを示した。

 したがって、米日金利差の拡大が円安をもたらすという関係は、そのインパクトが定量的に変化することがあっても、定性的には一貫して成立していると言える。それは、金利差が縮小したにも関わらず円安が進み、金利平価説が説明力を失ったと言われる2024年4月以降についても言えることである。

 他方で、為替レートは、それ自体のショックに対して長期にわたって応答し続けるので、分析に含めなかった外生的なショックによって為替レートが動いた場合には、その影響がしばらく続くことが分析結果として示された。2024年以降の日本では、貿易収支に悪影響を与えるような国際情勢の変化や、周辺国との外交関係の悪化などが、金利差そのものよりも大きな影響を、為替レートに対して及ぼしたと考えることができる。

米日金利差は依然として為替レートに影響している

2024年4月から2026年6月までのデータを用いて推計したSVARモデルは、翌月の為替レートをよく説明できている

 

為替レートの金利平価説は成立しなくなったのか? 構造VAR分析による検討(7/1 V2更新)

2024年以降、米日金利差の縮小にもかかわらず円安が進んだことから、カバー無し金利平価説は説明力を失ったと言われるが、はたしてそうなのか。

今回は、日次データを用いて構造VAR分析を行った結果、為替レートと金利差がよく合致していた2022年1月から2024年3月の期間だけでなく、より長期の1999年以降のデータや、2024年4月以降のデータのみを用いた分析を行った結果としても、金利差の拡大がただちに円安を引き起こす効果が確認された(金利差が1%拡大すると、4~9円/ドル程度の円安効果となる)。

2024年以降に、為替レートと金利差の関係が崩れたとすれば、それは本モデルに含めることができなかった、貿易や物価関係などの様々なショックによるものであろう。しかしそれらは日次データとして入手することが難しいので、今回の分析には含めることができていない。今後の課題である。

 

 

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VARモデルのインパルス応答グラフの縦軸は何を表しているのか

 VARモデルは時系列データ間の影響関係を、それらの構造的に関する理論に立ち入らず、定量的に明らかにできて便利である。その結果はしばしばインパルス応答グラフによって把握され、これによって、ある変数のある時点での変化がその時点以降の別の変数の変化に統計的に有意な影響を与えるのかどうかを視覚的に確認することができる。しかし、その縦軸が示す数量の単位や意味を把握するのは、実際にはさほど容易ではない。本稿は、分析に用いられた変数が実測値の水準(レベル)なのか、対数変換されたものなのか、まだ、分析時に階差がとられたものか否かに応じて、縦軸の単位と意味を明らかにする。

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朴勝俊論文(2026)「いわゆる「アベノミクス」がなかった場合の日本経済 : ストック&フロー・一貫マクロ計量モデルを用いた反実仮想分析」リポジトリ登録と図表訂正のお知らせ

朴勝俊の論文「いわゆる「アベノミクス」がなかった場合の日本経済」が、ワーキングペーパーとして関西学院大学のリポジトリに登録されました。 

https://kwansei.repo.nii.ac.jp/records/2002109

ディスカッションペーパー公開後にわかった図表の誤りを、以下の文書で訂正します。

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【論文草稿】 いわゆる「アベノミクス」がなかったら日本経済は?

私は反自民党・反高市早苗・反(故)安倍晋三ですが、独自のストック&フロー・一貫マクロ計量モデルを用いて、いわゆる「アベノミクス」がなかった場合の過去の反実仮想シミュレーションを実施してみました。アベノミクスは放漫財政と称されますが、財政支出は全く伸びませんでした。
それでも、アベノミクスが無かった場合(いっそう無理な金融引締と財政緊縮を行った場合)の実質GDP損失は12年間で140兆円弱でした。また、消費税が4年早く10%に増税されていればそれだけで40兆円規模のGDP損失が生じたと考えられます。反安倍政治勢力には「少なくとも」これを超える経済回復策を、供給制約・インフレ懸念の中であっても、説得力のある形で打ち出すことを期待します。

 

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■要約
安倍晋三氏は2012 年9 月に自民党総裁となり同年12 月末に首相に就任した。安倍政権が実施した、いわゆる「アベノミクス」は「大胆な金融政策」、「起動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」の「三本の矢」からなる政策である。このような政策は安倍氏らによって総裁選以前から予告されていたため、氏が総裁になった直後から、本格的に政策を実施する前に、為替レートや株価は動き始めていた。
 本項では「アベノミクス」が行われ無かった場合の反実仮想シミュレーションを、独自のストック&フロー・一貫マクロ計量モデルを用いて実施した。「大胆な金融政策」がなかった場合の影響については、1.8%の金利高、20%ポイントの名目実効為替レートの円高、2012~14 年度の株式再評価ゼロと想定して計算した。「起動的な財政政策」がなかった場合については、2012年度補正予算ゼロ、2013 年度以降の政府消費および政府投資の5 兆円削減として計算した。「民間投資を喚起する成長戦略」が無かった場合については、2013 年度以降の民間投資を毎年度5 兆円引き下げた。ここまで各シナリオについて、外生変数を一つだけ動かして結果を確認した上で、最後に全ての外生変数を一斉に動かしたシミュレーションを行った。また、消費税増税が実際の2019 年10 月ではなく、前政権時に予定された2015 年10 月に実施された場合のシミュレーションも行った。
 金融緩和がなかった場合、金利の高止まりと円高、株式再評価の欠落によって、実質GDP は落ち込むこととなる。これは、純公債残高GDP 比を押し上げる結果となる。財政政策がより緊縮的で、政府消費や政府投資が抑制された場合にも、実質GDP は落ち込む。純公債残高GDP 比の改善は、あったとしてもごくわずかである。成長戦略がなされず民間設備投資が減少した場合にも、実質GDP は落ち込む。この場合には純公債残高対GDP 比の悪化が見られる。
 消費税が予定通りに増税されていた場合の影響は、意外と大きい。たった4 年間だけ、消費税率が2%高まるだけの変化であるが、政府消費ないしは政府投資が毎年度5 兆円引き下げられる場合よりも、実質GDP の落ち込みは大きかった。結果的にシミュレーション期間の大部分で、純公債残高対GDP 比はむしろ悪化した。
 「アベノミクスの全効果」がなかった場合のシナリオでは、シミュレーション期間(2012 年度から2023 年度までの12 年間)で、実質GDP の累計損失は138.5 兆円に達する。これに、予定通りの消費税増税の悪影響42.4 兆円を加えると、180 兆円を超える累計損失となっていたであろう。純公債残高対GDP 比はむしろ悪化し、ベースラインよりも51.1%ポイントも高くなる。
 筆者は政府債務対GDP 比を重要な財政指標とは考えていない。むしろ物価上昇率が物価安定目標に沿っているかが重要と判断している。しかし、多くのエコノミストのように政府債務対GDP 比の引き下げが財政健全性の重要な指標と考えた場合であっても、デフレや超円高からの脱却のための財政・金融政策が適切になされなければ、むしろ政府債務対GDP 比は悪化するということを、本項のシミュレーション結果は示している。

金融資産・負債の蓄積とマネー量の変化を把握できるマクロ計量モデルの構築 --  ポストケインジアンのストック&フロー・一貫アプローチを用いて  --

日本版のストック&フロー・一貫マクロ計量モデルを構築し、簡単なシミュレーションをいくつか実施してみました。 利上げや政府支出増加のほか、消費税増税やベーシックインカムなどのシナリオ分析も試しています。 30分弱の解説です。

 

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本稿では、実際の日本の経済データをもちいた実証的なストック&フロー・一貫モデル(SFC)の制作を試み、データセットの作成から、モデルの構築、そして政策シミュレーションの試運転に至るまで、その経過と到達点を記録した。SFCは「ある部門の支払いは必ず別の部門の受取りである」、「ある部門の負債は必ず別の部門の資産である」という原則に則り、実物経済と金融経済の相互依存関係を堅牢に表現できるものである。すなわち全部門の金融純資産の総計は必ずゼロになる。SFCを実際のデータに基づくマクロ計量モデルとして完成させた事例はまだ少ない。我々が、デンマークのデータを用いたByrialsen et al. (2020)のSFCマクロ計量モデルを参考に、同様の構造のモデルの日本版を試作したところ、「国民経済計算(GDP統計)」から得られる1994~2023年度の計数でデータセットのほとんどが作成でき、PC用の取扱容易なソフトウェアでモデルが構築できた。今回のものは、金融資産種別を6種類に増やし、金融部門を日本銀行とその他金融機関の2部門に分割したことで、財政・金融政策によるマネーの増減を見ることができるようになった。例えば消費税増税は政府純負債を減らすが、家計の貯蓄性向を高める効果によって意外にも家計の金融純資産は増加する。また政府の赤字財政支出の増加は、家計をはじめとする他部門の金融純資産を増加させる。家計等が獲得した金融純資産がどのような金融資産の形で保有されるか、あるいは債務の返済に回されるかは、MSの増減がどうなるかは、その時々の金融資産間の相対的な利回りに依存する。

 

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※ 上記の論文は以下のWorking Paperの内容と基本的に同じですが、公開後に見つかった誤字等を訂正したものです。

朴(2015)発展型日本版ストック&フロー・一貫マクロ計量モデルの構築

https://kwansei.repo.nii.ac.jp/records/2001524

 

ポストケインジアンのマクロ・パラドクスについて 朴勝俊、2026/2/19

ポストケインジアンのマルク・ラヴォアは、自著でマクロ経済学の様々なパラドクスについて説明している(表1)。本稿の内容はラヴォアの著書に基づいている(Lavoie, 2022, pp.17-24; p. 94)。これらの多くはマクロ経済学を知るものにとっては常識と言えるものであるが、新古典派・主流派の経済学者が重要なパラドクスをいくつか無視あるいは忘却していることがしばしばある。

 これらは一般には「合成の誤謬(fallacy of composition)」と呼ばれるものに対応している。「売れたものしか生産されたことにならない」、あるいは「誰かの支出は誰かの所得である」、「誰かの借りは誰かの貸しである」といった当然の事実を認識していれば、個々の経済主体にとって合理的とみられる決定は、誰もが同じようにすれば社会全体にとって非合理な決定となることが理解できるだろう。

 

表1 全体論:ポストケインズ派のマクロ・パラドクス

・節約のパラドクス  (Keynes 1936)

    貯蓄率が高まると、かえって生産が減る

・政府赤字のパラドクス  (Kalecki 1971)

   財政赤字が増えると、民間の利潤が高まる

 (あるいは財政赤字が増えると、政府債務対GDP比が改善する)

・コストのパラドクス  (Kalecki 1969; Rowthorn 1981)

   実質賃金が高まると、かえって利潤率が高まる

・開放経済のパラドクス(Blecker, 1989)

   全ての国々が利潤優先型レジームであっても、実質賃金が高まると高成長につながる

・柔軟性のパラドクス 1  (Tobin 1980; Caskey and Fazzari 1987; Krugman 2012)

   名目賃金や価格が柔軟であるほど、民間債務の悪影響が大きくなる

・柔軟性のパラドクス 2 (Seppecher 2012; Dosi et al. 2017)

   使用者側が簡単に採用・解雇できるほど、雇用が減少する

・柔軟性のパラドクス 3 (Carnevali et al 2020)

   輸出財の価格硬直性は貿易収支を安定させ、輸出財価格が為替レートに敏感だとそれを不安定化させる

・予測のパラドクス (Dosi et al. 2020)

   個々の企業がよりよく予測できるようになっても、全体のマクロ経済的パフォーマンスは改善しないであろう

出典: Lavoie (2022)の表1.4(p.18)の記述に、文献本文の記述に基づいて加筆を行った

 

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